The Musician's GuitarVOL.2 吉田拓郎 シンプジャーナル1984.8
The Musician's GuitarVOL.2 吉田拓郎 シンプジャーナル1984.8
10年以上もの長い間、我々は吉田拓郎の"ポジティブな面ばかりを追い続けてきた。 その裏側に隠されたハイ・テンショナルな孤独、苦悩等の断片すら知る事もなく……。 そして、今ーある意味では、最も "ナチュラル"な吉田拓郎を見つづけ、支え続けてきた素晴しき「愛器=恋人」達を通し、その"ネガティブ"な『TAKURO-YOSHIDA』像を、ここに見る事が出来る。おそらく、彼の所持する全てのギターが一同に会したのも、これが初めてに違いない...。未だかつて、未公開の"秘密基地"ともいえる拓郎氏自身の「プライベート・スタジオ」で、ホットに展開された取材の成果をここにリポートする。あの強力無比なる"スーパーエナジー"は、ここから放射されていたのだ。タクローホリック諸君!チビルナヨ︎!!
構成・文 浅田 仁
ー追い求めるほどに、離れてゆくー
吉田拓郎はいつだってそんな風に、摩呵不思議なパースペクティブをコントロールしながら、我々に"ノン・フィクションの青春" と "ドリーム・ホライゾン=夢の水平線"を見せてくれる...。 ここ数年、エントロピーが増大しつつあるニューミュージック界の中で、常に "NEVER SHRINK BACK"=決してひるむ事なく、"ALWAYS BE SURE"=いつだって"自身"でありたいとー確実に、 「TAKURO・新次元」をクリエイトし、うらやましきかな"独楽・浪漫"の放蕩を続けている。
そんな、ヒューマンー吉田拓郎の、レジェンド・ヒストリーを刻み続けてきたギター達・・。"音楽人" としてのネガティブな「TAKURO・GRAFFITI」が、今あざやかに甦える。 ーMy Familyー
I
吉田拓郎の中心的存在のギターは、やはりこれらのテレキャスター軍団。 常に"メイン・ストリーム"を走る時、彼の腕の中で圧倒的なエナジーを放射し 続けてきた"ツワモノ"達である。その思い入れと、魅力について語ってもらったところ 「やっぱ、デザイン。シンプルで一番 いいカタチしてる。それとサウンドについてはネ、ピック・アップが2つでサ、セレクタ ー(ポジション) も3つしかない訳じゃない ...。要するに、そん中で"自分の音”を決めなきゃいけないじゃない、モロに。好きになんなきゃいけない訳じゃナイ! その音をネ。 そこがイイ・・・!・・・。」とまあ単純明快?なるテリー感を頂戴した。とは言うものの、実際にこれらのギター達を注意深く探索していくと、 なかなかどうしてディテイルに至るまでシッカリと拓郎流・サウンド・気くばりが施されているのに気付く。特に、ペグ、ピック·ア ップ、ブリッジ等、基本的な部分は常にパーフェクトに調整されサスガというところ。 これらのテレキャスターコレクションについては、明確に何本所有しているか? という事が謎であったが、現在はとりあえずこの5本である。先ず「フェンダー"ペイズリー・レッドテレキャスター」であるが、これは ロスでも有名なギターショップ『ハリウッド・ミュージック・ストア』で、オーナーの二男が家を買うんでお金が欲しい等のイキサツから購入したという面白いエピソードをもつ。更に何と、レアーなペイズリー・テリーの中でも、全ゴールド・パーツという非常に珍しいもの。#240537で、'69年に製作されたものだ。カラーもほどよく褪せていて、まさにGood Looking!。次に「シェクター」 勢が2本ーオレンジ・サンバーストは、武道館でもお馴染みの「ムーン・A-T・テリ ー」のスペシャルで、最近はメインで使用されている。そして、初のお目見えがクリームの「シェクター・テリー」で、シェクター独特のシンプルながらパワフルでコシのあるサウンドが気に入っているとの事で、今後ステージ等で使われそうだ。2本共に、ファクトリー・スペックそのままで、特に改造は加えられていない。4番手は、「トーカイ・TE-120」ーフロントをハム・バッキング・PU (トーカイ・V-PAF) と、Uシェイプのネックに交換。ストーンズの、K・リチャード風が一本あってもイイネという事で仲間入り。 最後は、『レオ・ミュージック』で製作しても らったという「カスタム・メイド・テリー」 ーセン・1ピース・ボディに、フロント・ハムバッキングの変形ストラト・アッセンブリーをマウント。ハムバッカーとシングルのフェイズ・アウト・サウンドが非常に気持ちイイという理由から、レコーディング等にも多用している。 で、ここで気づいた人も多いと思うが、全てメイプル・ネックで構成されている。薄めでスリムなネックが大好物という事で、ギターを選ぶ基準というのもー「とにかく、ネックがピタッ!とくれば......ソレダケ。」と、何ともユニークだが、ストラトが名器でいいギターだと解っていても持たない理由は、日本人の体型には何とも合わない由でー「もっと、日本人に合ったギターをつくるべきなのにネェー、絶対オカシイと思わない!?」と、力説していた次第であります。 アレ!?『LIVE '73』での「フェンダー テレキャスター」は何処へいったんだ?と一瞬不安が胸をよぎったお方!、アンタはスルドイ。実にこれが何と! ー「アッ、アレネ・・・オールナイトニッポンか何かのプレゼントであげちゃった...。ガハハハ!」と、 豪快というか何というか.....恐れいりました。 それと、『つま恋・'75』ライブで使用していた「フェンダー・テレキャスター・スインライン」は借りモノだったそうで、本人はもう、ギターはイラン!」と言い切っておりましたが、テリーだけはやっぱり増えそうな気がしているのは果たして僕だけなのだろうか.......?
II
さて、グループ・IIもなかなか個性的なギター達が、スタジオの前で異彩な光を放っている。その中でも、特にハイライト的エピソードの持ち主はー 「BC・リッチ・ビッチ」である。これは、『シャングリラ』レコーディングの際、やはりハリウッド・M・ストアで手に入れたモノだが、 あの"エリック・クラプトン"・特注のうちの1本だそうナ!まあ、オーナーであるヒロ・三沢氏の話であるからして"真実"であろう。当のクラプトンがなかなか取りにこないので、何とかしてくれやと偶然立ち寄った拓郎氏に、白刃の矢が立ったという訳だ。どおりで、当時一10弦仕様のビッチしかなかったし、ボディのコア材のハギ方にしても通常のモデルとは大きく異なる。スタンダード・ビッチは、コア同志の場合、メイプル又はウォルナットをはさんで構成するのが普通で、直接コアを3ピースで構成した仕様のギターには、殆どお目にかかれない。さらに、厳選されたマテリアルだけあって軽い事、しかもサウンドはタイトでサスティン抜群という、まさに"家宝"モノである。次には、あの『新六文銭』時代の栄光の「ギブソン・メロディ・メーカー」。これは、加藤和彦氏から半ば強引に? 買ったモノで、 「今でもウルサインダヨネ......返せ返せッテ!(笑)」---とにかく歪むギターなんだそうでありまして、"ファズ・世代"の音の名残りが忘れられないと懐しんでいた。「フェンダー・リードII」は、ストラトが欲しかったんだけど大き過ぎるという事で、このモデルをストラト風アッセンブリーに変えてしまった。フロントに、S・ダンカンのP Uがマウントされているのが何ともユニークで、アウトプット・ジャックの追加といい、なかなかまとまったモデルとなった。レオ・ミュージックでやはりカスタマナイズされた。最後は何故か知らないうちにあったという「ブライアン」。そして、ベースはレコーディングにどうしても必要という事で、「ヤマハ・BB-VII」と「グレコ・GOB II」 の2本所持。 この他にも、「フェンダー・ストラトキャスター」(ピンク・フィニッシュ)が、現在"吉田拓郎withハード・レゲエ・ブギー軍団" のリード・ギタリストである青山徹氏の元に"のっとり"されている他、「カワイ・吉田拓郎・モデル?」が、かまやつひろし氏の所へ出張中との事で、話題はつきない…。ちなみに、アコースティック・ギター関係では、「ギブソン・J-45・ADJ」も加藤和彦(トノバン)氏からお世話してもらったもの。このギターを含めて、現在は下の3本であるが、 「ギルド·F-50」はーーー「可愛いから、あげちゃった'笑)」と川村ゆう子(拓郎・初プロデュースのシンガー)のもとへ。そして晴しき仲間達」(TV)のあと飲みにいったのが運悪く?酔いにまかせて「フェン ダー・デラックス·リバーブ」が、何とあのビート・たけし氏のもとへとーーー『楽器・交遊録』も本人に負けず劣らず、自由気ままな旅を続けている......。
Ⅲ
長い人生における旅の途中で、最も鋭敏である"青春"という一時期をーー吉田拓郎という男(アーティスト)と一緒に過ごしてきた者達にとって、これらのアコースティック・ギター達は今や"やるせないほど・ノスタルジック"ーーの象徴であるに違いない。 そう思わせる程、近年久しく拓郎氏はこれらのA・ギターを、人前で手にしていない。 誰かが言う様に"ダイレクトに唄う事を卒業したんだヨ" と言えばそれまでだが、あの圧倒的迫力でーー激しく生々しく、それでいて妙に甘く切ないやさしさで、多感なBOY& GIRL達の心を犯してくれた愛すべき歌の暴君たちーーもう振り返ってはいけない"イリュージョン"なのだろうか……。今でも、そんなーー青春の光と影をくっきり映し出す、懐しきアコースティック・ギター達----左から・マーチン,・D-35 (’71) 。ギブソンJ45・ADJ(’67) スーパーアダマス- 1687-8(’76)。
STUDIO
ギッシリと、しかも整然と機材が配備された吉田拓郎の"秘密基地" は、さしずめ宇宙船のコントロール・ルームといったところ・・。24チャンネルのコンソールはもちろん、それに対応すべくマルチ・トラック・レコーダー、インプット-アウトプットのモジュレーター、イコライザー、パワーアンプ、リミッター、そしてモニター・スピーカー等.....レコーディングに必要な機材は全てパーフェクトに揃っている。
"ナメタラ・アカンゼヨ" とでも言う様に壁からニラミをきかすJBL・スピーカーに見据えられた時、「ヤベェ~、全然本格的だ!」と背 中がゾクゾクしてしまった。更に、これに楽器群が加わる訳で、おびただしいほどのコードの数とラッキングの壁に、もう圧倒されっ放し!
Ⅳ
レコーディング機材の他に、楽器群も"プライベート・スタジオ"の枠を超えている。ギター・アンプ、キーボード等はもちろん、エフェクター関係も使い易くラック・マウントされており、詳細は説明するまでもなく、サウンド・メイキングに関する殆どのものが、所狭しと自らの存在感を競い合っている。拓郎氏自身のみならず、バンドの人達の事も十分配慮されているのだろう......。その他にドラマチックス等も顔をのぞかせており、今後の『デジタル』の波を意識した上での、全ての楽器への研究をかかさない姿がみえた。 日々、世界中で新しい音が生まれ、時代と共に変化してゆくサウンド洪水の中でーー「最 終的な願望としてはネ、例えばスタジオなん かで音を出すじゃない、全員が。その音がス ルーでネ、卓を通ってマルチに入っちゃえば いいのもう......。要するに、こっちで(スタジオの中で)出した音が良けりゃイイって事なの。それがまた十分聴くに耐えうる音になってればネ。その為には"音源=ソース"が絶対良くなきゃいけない訳、こっちで出す音がネ。だから、こっち側(プレイヤー側)の音をもっともっと研究する必要があると思う。 今すごく装置に頼ってるじゃない?とにかく、トラック・ダウンの時にネ、ディレイもってきたりアレコレ要らない様にしたい、理想は・・・ 。その位"こっちはイイ音出してんだ"みたいな気分になりたいもんネ、早く。」ーーと、にわかに次のアルバムを期待させるこの発言。このスタジオをベースに、どんなサウンドでマインド・レイプしてくれるか、楽しみがまた増えてしまった。
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追記 : カテゴリー"吉田拓郎" より分離独立
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