芸能界でコーヒー・ブレイク 吉見佑子-吉田拓郎編-
芸能界でコーヒー・ブレイク 吉見佑子-吉田拓郎編-
吉田拓郎に対しては、本当に深い思いがあるわけ。初めて会ったのはNHKのスタジオだったのね。私がディスクジョッキーだったとき。下駄はいて来たっていう印象だったの。彼は「オレは下駄をはいてない」って言ってたことあるけれども、もしはいてなかったとしたら、下駄をはいているようなイメージがあったのよ。バンカラ学生って感じだったの。バンカラのきかん坊が、エレック・レコードからデビューしたわけ。
そのとき、なんと汚ない男の子だろうと思ったわけ。私はIVY党だったからね。『ある愛の詩』みたいな、ああいうシーンが好きだったから。まあ例えばハーバード、エール、UCLA、日本で言えば上智、立教、慶応のノリが好きだったからね。私はその頃はギンギンにうすぎれいな安いおネエちゃんだったから、あんな汚ないの見たことなかったわけ。そりゃあ地下道に寝ている人にはそういうのはいるけど、"歌うたう? エッ!"なんていうのあったわけね。
えらい反抗的な目をしてた。すべて世界中は敵だっていう顔してた。わりと可愛い顔してるのにさ、可愛いことに対してすごく後悔してるみたいな、"ボクはどうして可愛く生まれたんだ"とかいう、そういう感じがまたすごく可愛いかったけどね。ま、そのときはそれを可愛いと思うほど私も余裕がなかったから、憎い子だなと思ったわけ。挑戦的だったしね。で、岡本おさみさんが連れて来たんだけども、そのときはそれだけ、それっきり別れたの。
全然忘れてたわけ。その次に会ったとき、びっくりしたわけ。やっぱりNHKでだった。 「結婚しようよ」出す前、簡単に言えば彼が四角佳子とつき合いだした頃。
白いコットン・パンツにスニーカーだったの。カッコよかったわけ。私、形に騙されやすいからね。"吉田拓郎? あのときのォ?" っていうのあったねー。惜しいことしたわねー。あのときはわからなかったわねー、って思った。そのとき初めて私にもこの人の歌は聴けると思ったのね。
変わったのよ、拓郎は。それ、理由は恋をしたからだったのよ。岡林信康がいつか面白いこと言ってたねー。「童貞の頃は、何だって政治が悪い、国が悪いって、もう信じきって歌ってた」って言うの。女知ってね、「国や政治じゃケリつかないことばっかりや」って思ったんだ って。それから「冗談じゃない。そんなことよりも一緒に暮らすことでもう戦争なんだぜ。それでオレは変わったんだ」って。いいねー。美しいねー。だからそういうのっていうのがさ、拓郎にもあったんじゃないの?
それまでの歌はさ"あの川の流れのごとく・・・"みたいだったのが "僕の髪が・・・"になっちゃうよ、そりゃあ。童貞を捨てたかどうかって話じゃありませんよ。つまりさァ、女っていうものにパワーをいや応なく認めさせられたっていうのがあったんじゃない? で、やっぱ りイイ女とつき合ってるんだなァと思ったの。きっとイイ女なんだろうなァと思ったの。 でも、キツかったんじゃない?一緒にいることは、きっと拓郎にとっての意識革命だったから。で、別れた・・・・。でもそれが、拓郎のメジャーのステップになったっていう、結果的にはしたたかな計算みたいのができちゃったりしてるんだけどさ。四角佳子とのつき合いがなかったら、つまり、彼がうつむいた女といたらね。四角佳子って、西野バレー団だったんだからね。で、拓郎が例えばアングラ劇団の少女かなんかと一緒にいてごらん、ああいうふうにはならなかったわよ。吉田日出子と一緒になった岡林信康の事件と同じだとは言わないけれどもね。そっちへ向かわなかったってところで、拓郎にやっぱりミーハー意識みたいなものがシッカリ根差してはいた、ということを自分で認めることができたからね。四角佳子の力を貸り て、自分のミーハー意識みたいな部分を自分の中でシッカリと納得できたっていうところが、 拓郎の四角佳子との事件だった。
それが拓郎と出会った一番目の事件。
その後、"拓郎幻想"っていうのが私の中で大きくなるのよね。ところが私、恋に熱心になったりして、その間にあったあのつま恋コンサートに行かなかったりしたわけ。 でも、その間にもレコード聴いて、歌には感動したりしてたのよね。
私の一番好きなアルバムは『元気です。』と『今はまだ人生を語らず』。『今はまだ・・・』の中の 『暮らし』っていう拓郎が作った歌、あれやっぱりすごいと思ったねー。 "男だったんだと、女が居て気づいた。弱虫なんだと、酒を飲んでわかった" って。で "明日があるからと、今日は黙りこむ"とかって。あれはすごいね。真実だからね。足元ノリのわけ。RCやシ ャネルズと同じノリ。つまりそこにあるのは、ひとつの完全なリアリティよ。吉田拓郎自身の今をうたった歌っていうね。そういうのあったのよ。 で、去年。79年7月2日の武道館のコンサート。見終わって外へ出たら雨が降ってたの。 なんて素晴らしいカーテン・コールなんだろうと思った。雨までが拓郎を呼んでいるんだ、と。 夜中、嵐になったの。私、家に帰ってワーワー泣いたの。こんなこと、あっていいの!?って。 もう、アルバムなんか全部聴いちゃつたわよ。忘れられないんだもん。素晴らしいコンサートだったの。私、拓郎色になっちゃったわけ。もう、篠島のコンサート行かなくっちゃ生きていけない、と思ったもん。これは、もう、すごい。立てなかったもん、椅子から。
で、拓郎にどうしても会いたくて、お願いしたりして時間とってもらって、一緒にお食事したのね。私にとってはもう拓郎はすごいスーパースターでさァ、ドキドキしちゃってるわけよ。それでいろいろお話したんだけど・・・・。
ところが意外な部分をみたのよね、私としては。
「どうしてあんなつまらないシングルを出すの? あなたのシングルだけは信じられない」っ て言ったの。「あんなの出すの、恥しいからやめてほしい」って言ったの、私。あの頃、何だかそういうのいっぱい出てたから。そしたら,「ウルサイ!」って言ったの。「おマエはウルサイんだよ、そこが」って、私のこと言ったの。そのとき横に甲斐よしひろがいて、「吉見さんはやっぱりそこがウルサイんだよ」って彼も言ったわけ。
私、びっくりしたのね。いきなりお化けシャワーを浴びたような感じになってさァ、悪いこと言ったかなーと思ったのね。「だって本当のことなんだもん」小さい声で言ったの。「あなただって、わかってるんでしょ?」「わかってるからこそ言うな。そこにはいろいろ事情があるんだから」って拓郎は言うわけ。「私、そんなの知らないもん」って私は言ったの。事情なんかわかってたら、あなたと暮らしてるわよ。フォーライフ入ってるわよ。ユイ入ってるわよ、 みたいのあるわけでしょ? 私ただのあなたの見物人よ、拓郎くんのレースの見物人よ。見物人なんだから勝手なこと言わせてもらいたいのよ、っていうとこあるのね。 それで、「シングル、ナンセンス」「わかってるからそれ以上言うな。オレだって、いいとは思ってない」「だったらやめればァ?」「そうもいかないんだ。ローテーションとかいろいろ・・・」とか言うわけ。それ、そのとき、悲しかったねー。
私は拓郎にマジに相手にしてもらいたくなかったの。だって拓郎は私のスーパースターよ。 スーパースターはさァ、見物人を相手にしちゃあいけないのよ。"元気かい?" それでいいのよ。真に受けちゃったのね。すごいショックだったんだから。あ、私、この人の前で気ィ遣わなくちゃいけないんだな、と思ったの。ということは、日常レベルのおつき合いでしょ? 対岸になっちゃうじゃない。あなたはスーパースターよ。私はただの見物人よ。だったらその差をシッカリわきまえたところで愛してもらいたかったわねー。それを、要するに"おマエは土足で心の中に踏み込んでくる"って怒ったわけでしょ? 私、土足で踏み込んでも許してよ。 でも、あなたはスターだから、そういう私を相手にしちゃいけないって思ったけどね。
だから私はそれからずっとガマンして黙ったわけ。したらね、「今日は佑子、いいねェ。色っぽいねー。黙ってると、ほんと色っぽいよ」ってきたね。二人で、拓郎と甲斐。"あなたた ちも昔の男ね。女に言いたいことも言わせないで、黙ってるときは色っぽいなんてアナタ、源氏物語でしょう"みたいのあるわけじゃない。ねッ。イイ女なら黙ってる姿が美しいってとこあるかもしれないけど、私はやっぱり本当のこと言ってるときがきっと美しいと思うの。そこが美しいと思ってもらえなければ、私のことなんかわかってもらえないのよね。 "おマエは見物人のくせに自分のことわかってもらおうなんて、図々しい" って言われるかもしれないの。いいのよ、愛さなくていいの。でも、愛されることを拒めないのがアーティス ト。"オレはあんなやつから愛されたくない" っていうのは、日常レベルなのよ。それなら評論家になんなさい、ってとこあるわけ。でも、例え犬でも愛されたら"ありがとう"って握手する、サインしてやるっていうのがやっぱりスターなのよ。つまり、奇跡を起こせる才能を持った人のやることよ。だからそういう夢に近い場所にいることの責任ぐらいは取ってもらいたいのね。だって、私より夢に近い場所にいるんだもん。ステージの上のあの気持ちよさっていうのは、やっぱり、きっと夢に近いのよ。私から見れば。そういうステイタスを持っているんだもの。だから"私みたいな女の一人を騙せないで!"っていうのあるわね。私はそう思ったわけ。それが拓郎との最近の事件ね。
私、音楽評論家とか仕事おばさんとかいろいろ言われるけど、どこまで行っても、最終的にはやっぱり女なんだからっていうとこあるわけよね。だから、あなたたちはサクセス求めて、私はシアワセ求めて、行くところ違うのよねっていうのあるわけよね。
でもとりあえず今日は一緒にいましょッ、ていう感じのところがあるわけでしょ? で、そういう雰囲気っていうのが拓郎とは、だからそれっきり。まあ、コンサートは行くけど、とりあえず拓郎との一つの関係論となると、これで終止符を打ったのね。
読者にお願い・この本の中には真実も嘘もありますので、資料にすることや、内容を口外することはおひかえください。
カテゴリー「吉田拓郎」より分離・独立
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