ビートルズが教えてくれた 拓郎×岡本おさみ対談④
◇作詞家も歌ったほうが 富野坂昭如じゃないけど、自分が作 ったら自分で歌って、そこまでやって、 たとえば岡本ちゃんが歌っちゃえばいい のに、ぼくが歌っちゃった。 岡本歌える人と歌えない人ってあるか らさ。ぼくがもし歌えばまっ白けじゃな 吉田 野坂昭如だってそれは判ってるん だよ。だけどやってる。 岡本それはさ。1回ぐらいべろんぺろ んに酔っぱらって歌ってみようかとは思 吉田 うん。でもさ、自分の作ったうた 一回も歌ったことないって奴いるじゃな い。そういうのもおかしなもんだと思う ね。歌詞を自分で書いときながら人にゆ だねて歌ったことないみたいな作詞家が いたらね。
岡本 ぼくもだけれどね。
吉田 おかしな話 だと思う。とりつくろいすぎるんだよ。
岡本 下手でも歌わなきゃいけないね。
吉田 歌ってるやつはきついはずだから 作詞家がもし「おきざり……」みたいなのをさ、岡本ちゃんが歌ったらね。ぼくが歌うよりきついと思うよ。
岡本 そうだな。
吉田 だからそういうところで割と、とりつくろってる面あると思うよ。
拓郎 これはこうした方がいいよってぼくに何か注文をつけた時点において、ぼくに何か ゆだねてるわけだからね。
岡本 だからなるべく話したくないみたいなところもあるけど。いや味とは判ってて、もっとこうしたい。こうできたらいいなァって自分に歌をひきつけたい気持ちもあるしね。
吉田 おれは創る場合、岡本ちゃんが何を考えてるのか、それはまァ関係なしに創っちゃう。考えすぎるとおれ、できな くなるじゃない。だから考えないで創っちゃってあとで困るわけよ。
岡本 だけど結局さ、言葉書きと、曲を創る方、歌う方とのつながりは感じ、なんだとも思うね。いくら理屈で納得してもさ、出来なければしょうがない。まず出来て、出来たとき、聰いて、自分がそこで何かジーンとくるとかさ、考えて書いたことばが、考えたことばじゃなく て、確かに歌ってる。それを聴いて、これにこれだっていう何か感動みたいなものが大事でさ。理屈でまず判り合うと、感動しなくてもなっとくしてしまってるんだ ね。自分がさ。そのジーンときた時に創 りながら、人間関係ができてるんだと思 う。それは歌だけじゃなくて、ぼくは、 はっきりいえば、すべてそれが大事なん だと思う。
吉田 おれと岡本ちゃんの関係ってのは理屈ぬきでやってるじゃない。でもこの頃思うんだけど、それもまたいちばん理屈なんじゃないか、結局ね。
岡本 うん。ある意味でね。
吉田 そんな気もするんだ。最高の理屈みたいなさ。うがった言い方だけど、変な見方するとそれがいちばんややこしい理屈なのかも知れないとも思うね。だいたい理屈ってそういうことじゃない。 出したり引っこめたり。それを拒否してさ、つき合うみたいなことさ。これはヘ 理屈なんじゃないかって。
岡本 どうする。
吉田 しょうがないね、これは。
岡本 ぼくはいつも会って話を延々としたってしょうがないと思うんだね。お互 いに何かを創りたい人間でなければ、雑談も又楽しだけどさ。何かを二人で創り たいと思うとちょっとちがってくるもん だね。ぼくの気持ちを言えば、何かを書きたい。それで自分で、できたとまず自分が思えるところまで書いてみたい。さてできた。ではそれを渡して歌って欲しい人は、その時真先に浮かぶのは誰だろ う。戯曲書いてる人も同じだと思うけど 言葉の段階では自分にひきつけていく。 で、次の段階で、さて、みたいなね。
吉田 個人的な話になるけど、岡本ちゃんが電話で詞を送ってくる。拓郎1寸読むからって女房が書きとる。そして詩を送ったあとで何が「これおかしな詩だか ら」とか、言う癖があるよね。
岡本 ああそうか。一言多いんだ。
吉田 そこでおかしな詩っていわれると じゃあそうかな、そう創らなければみたいなことがある。だからそうじゃなくってもおれが大笑いするような詩もある。 だからさ。
岡本 判るなァ。でもあれだね。自分が何日もかけて書いてると、何か一言付け加えたいっていうのがあるんだな。人間って奴はさ。拓郎が誰かに歌をたのまれて書いたとしてさ、出来て渡す時、何か言わない。
吉田 ある。それは絶対あるけどさ。
岡本 そこなんだな。
吉田 おれ覚えてるんだけどさ、「ハイ ライト」って歌をおれが茶化して歌ったら、そうじゃないよ拓郎、って前に言ったけどさ。歌ができたあとで「そうじゃ ないよ」っていう方が結果的には言われ た方も、言った方もおもしろいんじゃないかと思うね。
岡本 うん。そうだね。
吉田 「おきざりにした悲しみは」みたいな歌だと、ぴったりしかないけど、割合普通のうただったら、おれが岡本ち ゃんと全然ちがう受けとり方したとする じゃない。おかしな歌だなと思ってげら げらソングになったら、それも面白いと それでね。岡本ちゃんはその真相をい わないの。一生言わないの。げらげらソ ングで終わっちゃうけど。死ぬ時にひと言だけ「あれほんとはまじめにして欲しかった」なんていわれたら、おれ「へえ・・・」ってなる。そしたらおかしいね。 たとえば偶然考えが合うこともあるけどね。いま望んでるのはさ。今はすごくま じめな歌が多いからさ、どこまでバカなことが書けるかみたいなことを岡本ちゃんがやってさ。それを黙って普段と同じ にポッと電話で送ってくるわけ。おれ は、また来たなって感じで、まじめな歌だと思ってやったら馬鹿歌だったていう ようなさ、どんでん返しがさ。
岡本 もう、いわれちゃって出来ないよ。 (笑)
吉田 それはだまし合いだからさ、おか しな歌やりたい。おかしなあまり意味のない歌。
岡本 そこから先はもう言わないでおこ うよ。 (笑)
吉田 こういうネタのばれる話はあんまり良くない。(笑)
岡本 だからあんまり会いたくないんだ よね。(笑)
(終)
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