
拓郎×松本隆
拓郎 昨日,久しぶりでユーミンのコンサート行ってきたんですよ。僕、二十年ぶりぐらいなの、彼女のコンサートって。
松本 僕も見に行ってないですね。
拓郎 いやあ、いいむお尻していたよ。 脚もきれいだったしね。僕はずっと以前に、いい脚してる女の子がいるからって誰かに誘われて、ユーミンの、というより荒井由実のコンサ ートに行ったんだよね。当時って、僕らの周りにはイルカか五輪真弓しかいなくてさ、歌はいいんだけど、あんまり観賞する感じのコンサートじゃなかったわけよ、どっちかっていうと。
松本 帰りたくなってきちやった(笑)。
拓郎 だから僕にとって、当時のユーミンはけっこう観賞したい女の子だったんです。ミ ニスカートはいててね。今、四十三歳でしょう。どんな感じかなと思って行ったら、きれ いな脚でね、プリンって、ちゃんとお尻も出てるし、ちゃんとシェイプアップしてる感じ で、ほんとにピチピチしてましたよ。
松本 そういう切り口で入ると、何て答えたらいいのか(笑)。
松本隆の不思議
拓郎 僕たちがいちばん最初に会ったのはどこでしたかねぇ。
松本 いつだろうね。そういえば覚えてないな。
拓郎 松本隆ってよく分からないという人がいるんだよね。なかなか出てこないし、喋らないし、カゲでコソコソっていう感じのイメージがあってさ(笑)。
松本 カゲでじゃないですよ。
拓郎 だから詩の世界から判断するわけですよ。今も向こうで『外は白い雪の夜』をスタッフに読んで聞かせたんだけど、 「今夜で別れと知っていながら、シャワーを浴びたの 悲しいでしょう」……これ、僕が君に書いてもらったんですから。
松本 そうですよね。
拓郎 どういうことなのかな、これ。「今夜で別れと知っていながら、シャワーを浴びたの悲しいでしょう」っていうのは。こういうことをどこから思いつくわけ?「シャワ ーを浴びたの、悲しいでしょう」って、この女の子は、僕が思うにとてもいい子よ。だからこの女の子には会いたいと思うけどさ、それを書いた君に会いたいとは思わないもんね。 どうしてこういう詩が出てきちやうの?
松本 どこから思いつくか分からない。不思議だよね。
拓郎 不思議なんですよ。いつもそういうふうな感じで、みんな、松本君を見ているわけですよ。どんな人なんだろうって。何でそんなに女のこと知ってるの、その人? っていうことがあるのよ。
松本 女だと思ってないんだよね、はっきりいって。
拓郎 こういう主人公たちを?
松本 松田聖子の歌なんか書いていても、あんまり女っていうのを意識してないの。男も女も同じ人間だから、人間まで下りちゃおうと思っている。
拓郎 あんまり男とか女とかドロドロの感じにはなってないの、頭の中では?
松本 人間まで下りられたら、どっちでも共通する深いもんが出てくるんじゃないかと思って。
拓郎 そうはいってもさ、シャワーとかいうのが出てきて……
松本 男だってあるじゃない、それ。
拓郎 今夜で別れと知りながら、男がシャワー浴びて......?
松本 男だって万が一っていうことがあるから、清潔にして。
拓郎 万が一のためにきれいにしておこうという……。
松本 そうそう。
拓郎 松本君、それだと、夢も希望もないよ(笑)。でも「私をきれいな思い出にして」 っていうのなんかは、やっぱり女の子でしょう。
松本 あんまりいないけどね、そういう女の子。
拓郎 いないでしょ。そういう女の子におれたち、憧れるわけですよ。
松本 僕もこういう人がいたらいいなと思って、それを主人公にしたんです。
拓郎 やっぱりねえ。今夜、「私をきれいな思い出にして」、とことんやりますっていうことですか(笑)。
松本 全然違います。それ、拓郎さんだけですよ(笑)。
拓郎 何で僕のイメージをそう決めちゃうの? 僕だってね、「私をきれいな思い出にして」って、そういう世界に入ってることは入ってるんですよ。ただ、一言、どうしてもつけ加えちゃうんですよ、「思いっきりやっていいかい」って(笑)。松本隆さんはそういう意味で、どんな人なんだろうなといろんな人が思っているようなんですけど、まずお子様の頃ですが、ずっと東京でしよう、生まれも育ちも?
松本 ずっと東京です。
拓郎 どこ生まれですか、東京の?
松本 青山。
拓郎 これですよ。青山で生まれてなきゃ、ここに行けないんだよ。「今夜別れと知っていながらシャワーを浴びる」っていうシチュエーションには。
松本 全然関係ないですよ。
拓郎 学校はずっと慶應なんですか。
松本 中学から。
郎 中学から慶應で、何人兄弟なんですか。
松本 いちおう三人でした。過去形だということは、一番下の妹が生まれつき体が弱くて早く亡くなっちゃったから。
拓郎 それは君の人生形成に影響があるんですか。
松本 かなりある。僕が詩の中で優しいとか、人と会って優しいとかいわれるのは、多分そのせいだと思う。
拓郎 妹さんの。
松本 生まれたときから弱かったから、すごく守ってあげないといけないのね。小学校に通うのも、ランドセルを僕が二個持ってあげたり。
拓郎 ああ、いいお兄さんだねぇ。そういう優しさ、おれにも少しくれる?
松本 優しいじゃない。
拓郎 自分ではいい人だと思うんだけどね、優しいかどか……。それで松本君の家は何をするお宅だったんですか、お父さんは?
松本 大蔵省の役人だったの。
拓郎 官僚か。
松本 官僚の息子がロックやってたって、すごいよね。
拓郎 これがまた面白いんだよね。
松本 結構すごい摩擦があったから。
拓郎 松本君自身は健康的な兄貴だったの? ケンカも強かったりとか。
松本 ケンカは売られることはあるんだけど買わないんだよね。
拓郎 買わない。
松本 子どものときからさ、結構理屈っぽくて、言葉で、理詰めで話してるうちに、相手が面倒くさくなって、手が出なくなっちゃう。
拓郎 それはある。松本君と話していると、ときどき面倒くさくなることありますもん。
松本 高校生ぐらいのときに目つき悪くて、ちょっと突っ張ってたじゃない。海に行くと 「や」の人から、からまれるんだけど、何か用ですかとかっていって。
拓郎 理屈こねるのね、「や」系の人に(笑)。もうその頃、音楽っていう感じはあったん ですか。
松本 高校のときにバンドやってて、アマチュア·コンテスで……。
拓郎 それ面白いね。聞きたいんだけど、最初からドラマー志望だったの?
松本 最初っから。ギターはあんまり上手くなかった。デイヴ・クラーク・ファイヴっていうバンド知ってる? あの『グラッド・オール·オーヴァー」ってドラムがカッコいいんだよね
拓郎 知ってる。ダブルドラム置いてるやつ。
松本 ドラムが主役で。
拓郎 ビートルズほどじゃなかったけどね。
松本 ビートルズの後に出てきたんだよ。それを知ってることが、中学三年生ぐらいだと結構ね、通みたいな感じで、僕はドラムがいいって、いちばんいい楽器取ったつもりだっ たんだけど。
拓郎 あ、そうなの。
松本 いちばん地味になっちゃいましたよ(笑)。
拓郎 ドラムを買えるような環境があったんですか。揃えるだけでも、当時は・・・。
松本 ないですね。親をダマしてドラムを買ってやったことが、人生で非常に後悔することだって、あとで親にいわれましたよ。
拓郎 高校の頃からイギリスのそういうロックで、アメリカのはあまり聴かなかった? プレスリーとかは?
松本 プレスリーは拓郎の世代のアイドルだったんですよ。
拓郎 アメリカのシックスティーズとか、フィフティーズとかはあまり影響を受けていないの? デル・シャノンとかニール・セダカとか、あそこらへんは?
松本 やっぱりポップスを自分の中ですごく評価したのは、ビートルズだったの。
拓郎 やっぱり、ビートルズなんだよね。
松本 これがあったら他に何にもいらないみたいな。だから中学のときにビートルズっぽいことやっていたじゃない、デイヴ・クラークに行って。それが高校入って、急にインス トルメンタルやりだして、そのバンドが結構上手くて、何回か全国大会で優勝したりしたんだよね。
拓郎 コンテストみたいなのに出てるの?
松本 ドラムコンテスト全国大会で優勝してね。
拓郎 えっ、松本君が。それ、全国が下手すぎるんじゃないの。
松本 「ヤング720』なんかにもゲストで出ちゃって。
拓郎 その頃、『720』の司会って、誰だったの?
松本 ええとね、北山修。 北山修や如藤和彦がまだやってたんだ。
松本 それでドラムソロやっちゃった。
拓郎 えっ!
松本 誰も知らなよね。
拓郎 おれ、松本隆のドラムソロって聴きたいなぁ。 ドラム聴きたいのは、松本隆と田辺昭知だね。どっちも謎のドラマーだからね。
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