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2011/02/07

吉田拓郎 '80~'81激走つづける男のスタイル 構成・文/こすぎじゅんいち 写真/山㟁正良

吉田拓郎 '80~'81激走つづける男のスタイル  週刊FM別冊FMスペシャル'81.2月上旬

構成・文/こすぎじゅんいち 写真/山㟁正良

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吉田拓郎は、燃えつづけている。フォーク史のなかで、自分をとりまく状況にケンカを売りつづけてきた。その拓郎が30歳を過ぎてから、かつての無鉄砲さではなく、本気で目標をさだめて、社会に、自分の青春にぶつかり始めた、と感じるのは、僕だけだろうか。拓郎は、かつての拓郎より熱い。彼自身が、かつての拓郎に、挑戦状をたたきつける。 篠島コンサート以来、休むことを忘れてしまったかのように激走しつづける拓郎。何が、それほどまでに彼を駆り立てるのかーー。
フォーク史のなかの吉田拓郎
1971年8月『第3回中津川フォーク・ジャンボリー』の2日目、吉田拓郎が、サブ・ステージにあがった時、PA装置が故障してしまった。この時、拓郎は、肉声で『人間なんて』 を絶叫した。観客は、彼の人間的な叫びに合わせて合唱。この時、拓郎は、フォークの神様、岡林信康に変わって、フォーク界のリー ダーとなる。時代は、70年の安保闘争の興奮がまださめやらぬ政治の時代だった。 いや、政治の時代というよりは、若者の政治意識が崩壊しつつあった時代かもしれない。だからこそ、大人の世代への不信が、若者をかたくなな現状拒否に追いこんでいた。 彼らは、反戦の、また既成社会に立ち向かう若いエネルギーを持った集団でいたかった。 その集団の英雄が欲しかった。 フォーク・ソングと呼ばれる歌が、ひとつのよりどころとなった。時代の若者は、確かに、拓郎を、自分たちの旗手として受け入れたのだ。
だが、翌年の1月、拓郎は、『結婚しようよ」を発表する。マイナーな世界であったフォーク・ソングが一躍、歌の世界、つまり社会におどりでたのである。重くるしい青春にアキアキしていた若者たちは、この明るい歌を、自分たちの歌として受け入れる。でも、 かつて中津川で、拓郎を旗手としてまつりあげた若者たちは、彼を"裏切り者"と呼んだ。 コンサート会場で、彼をむかえたのは"帰れ、帰れ" のシュブレヒコールだった。
マスコミに、社会にむかえ入れられた拓郎は"フォーク界のプリンス"と呼ばれることになる。 そして、拓郎につづいて、井上陽水、かぐや姫、ガロと、つぎつぎとフォーク界からのヒット曲がうまれた。四畳半フォークと呼ばれた、僕たちのちっちゃな甘ずっぱい香りのする青春……ちょっぴり悲しくて、ちょっびりシアワセな青春の世界が、見事に開花していくのである。それは、形を磨きあげていくことで、僕たちをとりかこむ状況、僕たちの心を歌うことができなくなってしまった歌謡曲に変わって、確かに僕たちの歌だった。
その状況はいまもつづいている。フォークというよりは、ポップといった方がいい現在の歌の世界までつづいている。人はそれを"優しさの世代"と呼ぶ。 
確かに、それは忘れかけていたやさしさを僕らの心のなかに呼びもどす歌たちだった。 吉田拓郎は、考える。時代は、一方的に、その方向に進みすぎたのではないかと。誰にも おかされない小さな自分だけの心の世界を歌 ってばかりいてもしかたがないのではないか と。拓郎は、政治的な歌を歌い始める。『アジ アの片隅で』である。もっと俺たちをとり まく状況に眼をむけると歌う。いままた僕 たちが忘れそうになっている世界へむけた歌 をうたうことによって、拓郎のまわりには新 しい若者たちが集まりつつある。 吉田拓郎という男は、時代の偏向をキャッチするアンテナを持っているのかもしれない。

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吉田拓郎姿勢を語る
いまのステージに関して、見ている方も、ああだこうだって言いたいだろうけど、俺は勝手にやらしてもらうよ。 俺はステージの上で、勝手に燃えてる。みんな、それを唖然として見てる感じだね。 でも、いまは出発点。とにかくゼロから始めたんだし、一回終った人間なんだからさ、『人間なんて』や『落陽』の形にずっとこだわっている、っていうのは意味ないんじゃない。 とにかく、一度、観客をつき離す、っていう作業が必要なんじゃないかな、自分のためにね。

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吉田拓郎音楽の原点を語る
小室等が、ずっとステージをつづけている。彼のステージを見ていると、"いま歌わなきゃ、俺が言わなきゃ“っていう感じを感じちゃうんだよ。 それは、もう、"彼の狂気"なんだよ。 たかが歌手なんだけれども、だからこそ、歌わなきゃって感じが、彼をみてると伝わってくる。 もういいと思うよ。愛だ、恋だとかは。そんなはずじゃなかったのに、流麗に流れすぎてる。やさしさの構造に埋没しかかっている。そんなわけないよ、歌ってさ。ロックンロールは怒りだもの。

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吉田拓郎ライブステージのあり方について語る
わざとらしいアンコールはやらない。俺も、何度もわざとらしいステージをやってきたけどさ、やってきた仲間のひとりとしては、そろそろやめないか、いいかげんに客をだますのやめようや、って気持ちがあるね。 いま、みんながレーザー光線を使ったりして、ショー・アップのことばかり考えてる。"ステージってナンダ" "アンコールってナンダ"と基本的なところから考えないと、デタラメな精神になっていくような気がするのさ。 客とステージの上の人間とナレアイができそうな気がしてさ、それが一番イヤなんだよね、俺は。

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吉田拓郎 拓郎オフィス・・・夢を語る
おそらく二月頃になると思うけれど、"拓郎オフィス"をつくる。レコーディングもステージも、プロモーションも、ひとつのチームとして、生涯の仕事にしよう、ということなのさ。 "すべて、あんたを信用してオレはやる“とお互いに思えるようなチームを作りたいんだよ。 "歌を作って、歌う"ということに総力をあげるチームだな、これは。それが、歌本来の姿だからね。 将来は、余裕ができたら、このチームで新しい人を育てる。でも、いまは、このチームの充実だけを考えてるよ。

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吉田拓郎 明日を語る
来年は、少し休もうと思ってるんだ。春は、コンサート・ツアーをやらないしね。いろいろと考えたいことがあるから、ひさびさにモノを蓄える時間にしようかと思っている。しばらくは、ハキだすばっかりだったからね。 ただ、その間も、曲は作りたいね。いまは、どんどん歌がでてくるいい時期だからね。 精神的な貯金をふやして、自分の生活からまわりの環境から見つめ直して、足下を確かめて……。 そして、夏以降は、自信をもって、またやるんじゃないかな。だから、ステージも、また変わると思うよ。

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吉田拓郎の現在
観客を無視した、とりあえず無視した、でも必死のステージを終えたあとで、拓郎は、バックのメンバーやスタッフと飲みに行った。"打ちあげ"と称する宴会。彼らは愉快に飲み、食い、冗談を言いあった。 拓郎は、<拓郎オフィス>を作ることで、こんなチームを作りたいのだろう、と僕はその時思った。 形だけの“家族”なんて、すぐにでも崩壊してしまう かもしれないけれど、"すべて、あんたを信用して、オレはやる"と互いに言えるだけの信頼感のあるチームだったら、何かをできるかもしれない。拓郎は、そう感じているはずだ。 それは、ひとつの音楽共同体を作る作業でもある。 「落陽」をとりあえず捨てた拓郎は、第一歩から、やり直すつもりで、歌を作り、歌っている。20代の拓郎より、30 代の拓郎の方か真剣なのだ。まわりを知らないより、知っている方が、一歩を踏みだすのが困難だし、大きなカがいるはずだ。 拓郎が、ボソッとこんなことを言った。 “若い頃より、いまの方が、相手のこわさを知っているから<やる時はやりましょう>という気持ちでケンカ売っているけど、前は、わかんないで、ヤミクモにケンカを売ってたからね。いま、やったら、ほんとうのケンカになると思うね” 彼は、ほんとうのケンカをやろうとしているのだ。そのために、自分の足下を固めておきたい。生涯、 やれる仲間━自分に賭けてくれる仲間━とともに、歩きたいのだ。その時こそ、思いっきり、歌を、ステージの下に向かって投げつけられる。その時にそなえて、拓郎の歌とステージは、どんどんハードになっている。そう、拓郎のもうひとりの仲間である岡本おさみも、拓郎自身より、拓郎の気持ちになって、歌の言葉を書きつづけている。
「アジアの片隅で」というアルバムのなかで、拓郎自身が書いた詞は、ひとりで戦う男の孤独感に満ちあふれているけれども、岡本おさみが書いた「アジアの片隅で」や 「いつも見ていたヒロシマ」は、拓郎の気持ちを代弁しながらも、もう一歩先をめざし、相手にぶつかっていく 姿勢を表現している。 いつか、青山あたりで飲んでいる夜、彼が言った。 "岡本おさみとバイブレーションがぴったり合ってきた感じがするんだな"  おそらく、岡本おさみも、拓郎の気魄を自分のものとしながら、詞を書いている。拓郎という人間を知ることで、もうひとりの自分を知ることができる。僕は、 「アジアの片隅で」を聞きながら、歌の言葉の創り手の、その喜びを聴きとることがある。 拓郎は、自分をとりまく、そんな状況を考えるために休養に入る。そして、さらに鋭さを増して、歌うはずだ。

文・こすぎじゅんいち

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追記:カテゴリー"吉田拓郎"より分離独立

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