'75ライトミュージック サウンド・プロ・オーディオめぐり 瀬尾一三
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瀬尾さんの不満は、スタジオの中にある。それも日本とアメリカ、たとえばロスやナッシュビルのサウンドと日本のスタジオで創られるサウンドとのあまりの 違いにあるようだ。 「ミキシング・コンソールやマイク、テープレコーダーは、日本もアメリカも同じものなんです。むしろ日本の方がメインテナンスがいいし、スタジオの造りもしっかりしている」ところプがサウンドに大きな違いができてしまうのだそうだ。 「ウエストコーストの連中は、かなりひどいスタジオでも録音している。屋根裏部屋や納屋を改造してスタジオにしているものもあるんですよ」サウンド造りの良し悪しは、スタジオやそこにあるマシ ンで決まるものではない、と瀬尾さんは言いたげだ。 彼の不満はスタジオだけでなく、レコードづくりの要、カッティングまで及ぶ。 「テープまではバツグンのサウンドだったのが、いざレコードになるとまるで違うサウンドになってガッカリしちゃうことも多いんです」。 彼の話しぶりは、やさしくおとなしい のだが、その底にはレコードづくりのあり方についてのきびしい意見がみえた。 不満ばかりか、と言うとそうでもなく、「ミカ・バンドのアルバム(『黒船』)を プロデュースしたクリス·トーマスと日本で一緒に仕事をしたミキサーと、かまやつひろしのレコード(「我が良き友よ」) を作ったんだけど、彼はぼくのサウンドをしっかり受けとめてくれて、とてもいいものができたよ」やさしい人柄を一層 柔らかくしてうれしそうに語ってくれた。
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アレンジャーとは、楽器の編成やフレージングを決めるだけでなく、サウンドそのものについても強い意見を持っている。となると、人一倍オーディオに関心があるのではないかと思われるだろうが実際、「スタジオではいいサウンドだったとしても、それがレコードになり、い ろんな人の手に渡ると、アンプが変わり スピーカーが変わってそのサウンドはど んどん姿を変える。僕の考えていたのとは全く逆になってしまうこともあるでしよう」。 なるほど、その通りだ。あの小さなカ ートリッジひとつ変えただけでもサウンドは一変してしまう。それがオーディオ というものだ。「だから、どんなオーデ イオ·システムで聴いても、イメージが 太ったりやせたりしないよう、モニター・ルームではサバ読みして最大公約数的なサウンドにまとめるテクニックが必要なんです」3年前は、そんなことも考えずにレコードをつくっていたそうだが、この頃ではずいぶん気をつかっていると言う。プロフェッショナルの言葉だな‥・と僕は思った。 瀬尾さんのオーディオ·システムは豪華ケンランな高級機でもなければ、チンケな安物でもない。ごく普通の機械だ。 誰もが持っているようなオーディオ・システムを物差しにして、彼はサウンドのイメージを拡げている。オーディオはシロウトと自称しているが、うまい具合 に"シャキシャキした音"の傾向のスピーカーやカートリッジを使っていたのは偶然か。コピーなどで長時間使うヘッドフォンも、軽いオープン·エアー·タイプを使っていた。近々、4 chのデッキがこの部屋に入るという。3日で飽きたというシンセサイザーも多重録音にまた使われ出すことだろう。
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《オーディオ屋からひと言》
高域のトーン·コントロールを上げてシャキシャキのサウンドにしているが、 トーン·コントロールで音を固くするのには無理がある。補整するものだ。本質的にそういうサウンドを求めるのならばJBLのL-16、26あたりのスピーカーを勧めたい。きめ細かい音が期待できる。
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瀨尾一三プロフィール
昭和22年9月30日兵庫県に生まれる。関西大学時代は“愚”(ぐ) というフォーク・,バンドを組んでおりURCからレコードを出したこともある。メンバーに中川イサトがいた。 音楽出版社で 働くうちにアレンジの仕事を始め、本職にとって代わる。 3年め。代表作品は、「我が良き友よ」「岬めぐり」「妹」『たくろうライヴ』などの他多数ある。同年代のアレンジャーでは、高中正義や松任谷正隆、萩田光雄氏などが気になるところ。
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カテゴリー「吉田拓郎」より分離・独立
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