吉田拓郎×岡本おさみ対談 後編・ 新譜ジャーナル1984年7月号
吉田拓郎×岡本おさみ対談 後編・ 新譜ジャーナル1984年7月号
吉田拓郎・岡本おさみの対談の第2回をお送りします。前回では吉田拓郎の"自己に徹底的に根ざし、小手先を排した姿勢"と、岡本おさみの"個人のスピリットを歌に注ぎこみたいという願い、そして そのための方法"が、お互いに、会話に妥協を排した分、明確に伝わったのではないかと思う。もちろん同時に、ひとりの人間としての精神風土が、ふたり共かなり近 いということも。
2回目の今月は、酒も進み、かなりリラックスした会話をお楽しみいただけると思います。最後には, 拓郎からかなり興味深い提案も出て・・・。(この対談は、ぜひ前号の第1回目から続けてお読み下さい) 撮影 磯田守人 協力 原宿フレンチ・クォーター SJはシンプジャーナル編集者
<個人に徹する>いうこと
岡本 次のアルバムはいつごろ?
吉田 夏だな。8月か9月、ま、オレのことだからどうなるか判んないけどさ(笑)。(1984.11.21 アルバム「FOREVER YOUNG」発売)
岡本 次もまたキー(鍵)はプライベートなこ とになるわけ? そこらへん、シンプジャーナルとしても聞いておきたいんじゃないか? (笑)
吉田 "次もまた"って言われるとキツイけどさ(笑) またそうなると思う。絶対自分を裏切りたくないから、そうなるね。もうその予想はできてるもん。作品はできてないけどさ (笑) 。
岡本 具体的には?
吉田 だから・・・やっぱり・・・何つうの、"他人は関係ない、ボクはボク"っ言うしかないよな "ボクの人生なんだから、放っておいてくれ"と。
SJ でも、僕達みたいな職業とか、立場に居て、周りを見ていると"他人のことは知らん"と、"オレはオレ!"つて生きていたり、 作品を作っている人が、他人にとっていちばんメッセージになっている、そんな感じがしますね。僕達より若い世代ー一 15才とか、16 17の、いわゆるティーン・エイジャーの人達 にとって。それは、 "歌"というジャンルに限らず、あらゆる分野で。
岡本 そうかな。
SJ ええ。で、その"自分のこと"っていうのが、以前のフォークの"私小説的なもの"とはかなり違う、高いレベルに来ているような気がするんですけど。
岡本 確かに面白い人は、いっぱいいるね。
吉田 居るはずだよね。居なきゃおかしい。 次々と子供が生まれてきてさ、好きでも嫌いでも僕らがうたってきた歌を一応は耳にしているはずじゃない?その中からワシャ嫌いとかオレは好き"とか言いながら、音楽めざすやつ、やっぱり居るわな。その中にはいろんなやつがいると思う。本当にそれこそ群雄割拠になると思うし、裏返せば自然陶汰もあるけどさ(笑)。ただ、ひとつの方向にだけは向かって欲しくないっていうのは、あるな。
岡本 それは絶対そうだね。
吉田 それだと、"戦争いこう!"になっちゃうからさ。そりゃまずい、と。気持ち悪いよな。そういうの、一時、3~4年前かな、ちょっと気持ち悪い方向に行きかけたかな、と 思ったことあったよね。おこがましいけどさ、自負心として、オレなんか一生懸命やってきたわりには、なんか違う方向行ってるなあ、と。その"違う方向"っていうのは、自分の好きな方向とか関係なくね。なんか全員がひとつの方向に向かおうとしてんじゃないかな、 とか、思ったね。
岡本 雑誌が悪いとこもあるよな(笑) 。
吉田 そういう方向にし向けたりするからな (笑)。
SJ 大丈夫、心は痛まない(笑)。
岡本 心は痛まない? (笑)。
吉田 まあ、雑誌によって性格あるからな。 シンプジャーナルは特にある(笑)。
SJ ただ、最近その、"ひとつの方向に走る気持ち悪さ"に近いニュアンスの印象を受けることがあるんですけど、最近やけに "ブルース・スプリングスティーンの詞"が多いような気がするんですが、特に新人の人達に。
岡本 それらしい影響を受けた人ね。
SJ ええ。例えばスプリングスティーンの歌詞を三浦久さん(注:幾つかの大学で教鞭をとる傍ら、自らもシンガー・ソング・ライターとしてレコードを出している)が訳してらっしゃる。そんな感じの、文体も英語を日本語に訳したような感じで・・・。 岡本 うん、それはあるかもしれない。
SJ なんか、つまらないし、そういうのって不幸だと思う。
吉田 不幸かな・・・、それは判んないぞ。
岡本 まあ、そういうのっていつの時代にもあることはあるよね。ただ、余りにも一辺倒っていう感じはあるかな。 昔のディレクターってすごい面白くてさ、打ち合わせでも自分の好きなこと、やりたいことばっかり言ってたわけ。でも今は打ち合わせでまずウンザリするのが、最近のディレクターはすぐ「 "あれ風の感じ"でいきたいんですけど・・・」。自分の言葉で言わないんだな。
SJ なるほど。
吉田 とにかくみんな好きなようにやればいいんだよ。あっちこっちながめたり、流行りのファッションとか気にしないでさ。
SJ 本当にそう思いますね。で、さっき話した"スプリングスティーン風"は別にしても、確かにすごい個性的な、自分自身に徹した人達がこのところすごくたくさん出てきてくれて、そういう意味では僕達もこの本を作っててすごい楽しくなってきていますね。岡本さんのおっしゃるように。
<ワカメ>と<金字塔>
吉田 そう言えば何か書いてたね、岡本っちゃん。オレ、読んだぜ、新譜ジャーナルで。 なんか、"訣別の・・・" 冷たいことを(笑)。 (注:岡本氏の本誌連載エッセイ「うたのことばが聴こえてくる」の第9回 ('82年9月号) 吉田拓郎へ向けての「また会おうぜ、あばよ」 のこと)
岡本 あ、あれな(笑)。いや、あれを書いたから、今日、会いたかったわけよ(笑)。
吉田 "吉田拓郎はどこへ行くんだろう…" って。オレのことは放っといてくれって(笑)。
岡本 それともうひとつはさ、オレと拓郎が3日に1回は会ってると思ってるやつが、まだゴマンと居るらしいんだよな。
吉田 ああ、なるほどね。シンプジャーナルの世界だな。(SJに) オマエが悪いんだ(笑)。 オレと岡本っちゃんの関係ってのはさ、まずワカメ・・・・・。
岡本 ワカメの関係なんだよな(笑)。
SJ 何ですかそれ?
吉田 あのねー、ワカメがあんの。味噌汁に入れるワカメがあんだろ? あれじゃなくて、板ワカメっつってさ、ノリみたいので干してあるのがあんの。それをあったかいメシにかけてさ、うまいんだ、これが!岡本っちゃんのカミさんがね、それの地元なの。
岡本 いや、オレも地元だよ。
吉田あ、そっか。両方地元。で、それを昔送ってくれたんだ。最近、印税が入んないのか"訣別"されたからか、送ってくんねえんだ(笑)。
岡本 いや、復活させる(笑)。
吉田 あと、1こあんのはね。岡本おさみっていう作詞家……で、いいのかい? とりあえずは。
岡本 とりあえずはね。
吉田 岡本おさみっていうのは、シャイでね、すごいシャイ。要するに寡黙なんだ。いや、だったんだ。ところが今日会ったら、すごい饒舌じゃない(笑)。
岡本 最近全然寡黙じゃない(笑)。
吉田 ね。昔は寡黙だった!
岡本 そりゃ5年前だよ。
吉田 いや、10何年前から。「バイタリス・フ オーク・ビレッジ」の頃から。岡本っちゃんが台本書いてたんだから。
岡本 だってあの頃は、しゃべれる時代じゃないもん。
吉田 黙ーって書いてきて、渡すの。それからね、岡本っちゃんとオレの関係の中で、『ライヴ'73』っていうのがあるんだな。
SJ ええ。「落陽」が入ってるLP。
吉田 これはもうねえ、誰が何て言ってもね、 '73年だからね。あんな時代にあんなライヴできないから。あそこに参加した高中(正義) とかみんな、ホンットにね、自分のMY FAVORITE LPとして持ってるもん、大事にして。 田中清司とか、みんな持ってるわけ。あのライヴは最高だね。オレも持ってるけど、メロディーと詞が全部うまくいってるね、あれはもう、オレと岡本っちゃんとの最高の作品だね。
岡本 あれは、ぶっつけだったんじゃないかい?
吉田 ぶっつけ。
岡本 あれ、よく覚えてんだけど、何やるかっていうのがギリギリまで決まんなくてさ、あの曲はあの時あそこで初めて披露したんだよな。
吉田 そう。でもあのLPみんな好きだな。 今聴いても、悪くない。今だったら、やるじゃない? かぶせたり、ボーカルだけ変えたり。あれ、あのままだかんな。
岡本 あれ、一発で歌って、一発で録ったんだよな。
吉田 2日やったけどね。一日目、オレ、瀬尾(一三)と大ゲンカして、アレンジ変えて2日目を録ったんだけど、今でもみんな最高だって言ってくるね。特にミュージシャンが言ってる。
でね、オレ話ししたいのはこれだけね。岡本おさみの詞ってね、オレにとって、あの…つまり "リズム感"が無いのね。あの時代だから。あの時代、リズム感いらないから。いいたい放題、オレも、作りたい放題。でも、今は、時代が変わってるね、そうはいかなくなったんだよな、また。昔へ戻ってんの、本当は。で、松本隆のリズム感て、やっぱりす ごいわけよ、ドラムやってるからね。言葉が弾んでるわけ、リズムがあるわけ。きっとメロディー作るやつがね、詞を与えられると 「あ、こんなテンポ」って、なっちゃうのね。 でも、岡本っちゃんの詞は、全然なかったの。 ホント、さっき言った"書きなぐり"だったの。 で、それを歌にするのは大変だったんだけど、あの時代は、それが大変じゃなくて、そのことをたたみこんで歌っちゃった方がいいと。 そういう時代だったのね。だから、おこがましいけど"一時代を築いた"よね、オレは岡本っちゃんと。間違いなく。あの後、74年とか75年とか、岡本っちゃんが詞書いて、いろんな人がうたったよ。だけど、やっぱり駄目だったね、悪いけど。それは、作品が駄目っていうんじゃなくて、もっと他にも、例えば営業的にもね。オレはものすごい"金字塔" 立てたと思ってるもん。
岡本 それはそうだね。
吉田 日本の音楽少し変わったと思ってるもん、オレは。 "はっぴいえんど"から、オレと岡本おさみでまた少し変わったと思ってる。 だから、そん時はね、岡本っちゃんの詞に、リズム感を感じなかったわけ。ただ、その言葉に、もう、ホレたと。その頃オレも、自分のメロディーに、何ていうの、いわゆる自信無かったし。だから、ワッと書きなぐり、作りなぐりだった。だけど、時代が経ってくるに従ってね、やっぱり "こさえる"っていう作業が入ってきた時にね、駄目だったっていうね。岡本っちゃんの詞って、つまり・・・爆発力は、すごいあるんだ。でも、リズミカルじゃなかったのね、言葉が。
岡本 オレが書いたやつって、結局全部うたったの? ボツにしたのもある?
吉田 あるよ。「家族」。でも「家族」もライヴではうたったしね。マスコミのやつで、あれ聴いて泣いたやつもいる。あと、長いの。 それぐらいだよ、ボツは。
岡本 あの頃は大体、郵便で送るわけだよな。
吉田 そう。あの頃はって、ずっとあれだったけどさ(笑)。
岡本 そうか(笑)。
吉田 大体、岡本っちゃんのは曲つけにくかった。ところが、オレも昔はうたい放題だったからうたえたけどね、ところが今は、つけにくいね、自分以外の言葉で"いいたい放題" やられると。
岡本 でも、最近のオレの詞は、すごい(曲を)つけ易いって言うよ。
吉田 (すかさず)らしいね(笑)、それが判んねえ、オレ(笑)。
岡本 それはさ、こういうことをやってんの、真相を言うと。歌詞書くじゃない? 100行なら100行。で、それを削っていって、大まかな詞のカタチにするわけ。詞先行の場合は ね。今、半分以上、メロディー先行だから。
吉田 メロ先でやってんの? すごいねえ。
岡本 だけど、やり方が違ってさ、メロディーが来たからって、それに合わせるんじゃなくて、感じだけ頭に入れといてーーメロディ覚えないでねーー歌詞をバーって書くの。書きたいものを全部書いた上で、それから曲と付け合わせるわけ。
吉田 いやー、岡本おさみがメロ先も、って いうのは・・・信じられないね(笑)。
岡本 だろ? 宇崎竜童も、そう言ってた。 だけど今、半分以上そうだね。最近は、詞先でも配慮してると思うんだけど、例えば外国の曲とか、歌詞判んないんだけど、メロディーだけはなんとなく頭にあんの。でさ、歌詞書いていくじゃない? もちろんその時はメロディー無いんだけど、「あ、このメロディーに合わせて歌詞を整えよう」と。「メロディー付ける人は簡単だろうな」って、その辺の配慮は昔とは雲泥の違いよ。
吉田 雲泥の違い! 大人になったね、大人に!(笑) 失礼なこと言ってる(笑)。
岡本 いや、音楽が好きになったんだよ(笑)。 遅れて音楽を好きになったんだよな。オモシくて仕方が無いもん。体が3つあったら、やることいっぱいあるのになって、思うね。
吉田 面倒臭くなさそうだもんな。オレもう、他人のこと面倒臭くて(笑)。
岡本 全然。あれもやりたい、これもやりたい、だけど身はひとつ、だな。例えば、来月の終りまで20いくつ書くとしたら、そうしたら他のことはやれないよな。だけど、長い物も書きたい、とかさ。
吉田 岡本っちゃんこそ、小説書いてみればいいんだよ。
岡本 ウン。それも思うんだけどさ、やっぱり"歌"がオモシロイしさ。
吉田 小僧相手にしてもしょうがねえぜ(笑)。
岡本 それはもちろんそうだけどね。
吉田 小僧は小僧でやっていくって、自分でなんとか。岡本っちゃんはもっと"自分"を さあ・・・。
岡本 今思えば、昔は本気で"歌"にホレてるって感じじゃなかったんだな。10年なら10年、ホントに本気でやったのは、ほんの2~3人だしさ。今、ホントに楽しいんだよな。
吉田 楽しい?
岡本 ホントに。
吉田 "遅れてきたオッサンだな(笑)。
岡本 だから、植草甚一とか、すごいホレルわけ(笑)。あと、冒険小説にも凝ってるわけ。
吉田 ン? (とぼけて) ゲートボールに凝ってる!?
岡本 冒険小説だよ(笑)。
吉田 ビックリした(笑)。(岡本氏の顔を見て) あ、呆きれてんな「こいつまた、バカな……って (笑)。
<映画>
吉田 ねえ、岡本っちゃんが最近作った詞でさ、いちばんオレが納得するっていう詞、何?誰に書いた詞? 岡本 何だろうねえ・・・。オレがさ、例えば今拓郎に書いてうたったらオモシロイなっていう、そういうこと?
吉田 というか、既成の作品の中で。オレと別れてからので。"別れさから!"(笑)。
岡本 (笑)でもさ、拓郎と別れてからでも、400近く書いてるからな。
吉田 その中でもこれが自信あるっていうの。
岡本 自信があるっていうか、願望として、 今、拓郎がうたったらオモシロイナっていうのは、ある。
吉田 誰かうたってんの?
岡本 葛城ユキがうたってる。「ダウン・タウン・ドリーム」っていうのがあるんだ。
吉田 それ、LPに入ってんの?
岡本 うん、こういう歌詞なんだ。
♪ヘッド・ライトが流れる街に
酒を 浴びせ 酔いどれている
男の夢はどこに住む
さまよう ダウン・タウン・ドリーム
胸の中に埋めたサキソフォン
傷跡が吹く悲しいメロディー
男は男にこだわっていてよ
ダウン・タウン・ドリーム
こういう言司なんだ。
吉田 盗作だ(笑) !"男は男にこだわっていて"、オレのうたってることの盗作だ(笑) 。
岡本 (笑)いや、オレは去年からさ、北方謙三っていう作家がすごい好きだったのね。
吉田 ああ。
岡本 もう、熱狂的に好きだったから、彼に贈る歌を作りたいと思ったわけ、ファンとして。ただそれだけのことなんだけどね。でもその中で思ったことはさ、北方さんは男が男にこだわっている主人公、男が男にこ だわっている作品を、一貫として書いてきている人だと思うわけ。で、オレの"今"の中にはさ、そういうことが"作品"だって思っているわけだよ。さっき話したみたいに。
吉田 あなたがね。
岡本 ウン、僕が。そういう主人公を生み出すことが、何かを伝えられる唯一の方法だと思っているからね。 吉田 ああ、そうか。
岡本 今までだったら誰かに贈る歌を作るなんてことは、考えられないわけよ。だけど今は簡単に書けちゃう。その事がドキドキしちゃうわけ。その主人公を好きで好きでしょうがないから。
吉田 岡本っちゃん、映画を作らないかい?
岡本 いいねえ! だから今、歌をつくる、いいね、映画もいい、小説も、いいね、だからさ。
(終)
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