吉田拓郎LONG INTERVIEW 今、再び荒野をめざして 新譜ジャーナル'82.5前編
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昨年夏の、あの嵐のような体育館ツアー以降、横浜の新居で静かな生活を送っていた吉田拓郎が、いよいよその動きを開始した。 音楽業界内に話題をまいた片A面で400円というニュー・シングル「唇をかみしめて」(武田鉄矢主演映画「刑事物語」主題歌)の発売、コンサートスケジュールの発表。そういった音楽活動の再燃と時を合わせるように、長年続けてきたラジオ番組を降りることも決定した。加えて、5年間に渡ったフォーライフ・レコードの社長の席からもまた降りるという噂も・・・。 今、1982年春、もうすぐ36歳をむかえる吉田拓郎の中で何が変わり、何が新しく起ころうとしているのか。吉田拓郎は3時間を越えるこのインタビューで、本誌にその全てを語ってくれた。その全貌を、今月と来号の2ヶ月に渡って余すところ無くお届けしよう。偉大なるミュージシャン、そしてなによりも"大いなる人" 吉田拓郎の思いを感じて欲しい。
撮影/鈴木康弘協力/原宿. French Quarter.
■次のアルバムは自宅でレコーディング
話しはまず、この半年間の休養期間中のことについて。彼はラジオの仕事以外の時は、昨年9月に引越した横浜の新居に籠りっぱなしだったという。
Q 今年に入ってから、割といろいろな方に曲を書かれたとか。
吉田 そう、この1月2月はものすごい多かった。
Q 川谷拓三さんとか中村雅俊さん・・・。
吉田 もう12~こ3曲書いたかな・・・。「自分でやってたらLP1枚分できたな・・・、損した」とか考えながら書いてた(笑)。
Q 自分でも歌いたいなあっていうのもその中には?
吉田 詞がいいやつなんかね、特に。
Q それ以前は新居でどんな毎日を送ってたんですか? 庭の手入れとお客さんの接待にせい出してるってうかがってたんですけど。
吉田 ハハハ! じいさんだな(笑)。でも、 本当に来客の相手だけ。要するに新しい家なもんでさ、自分の居場所が決まんないわけよ。 で、家の中での自分の位置をまず決めてさ、けっこう家の中の生活楽しんでたよ。
Q 最近も、がんがん飲んでるんですか?
吉田 飲んでないよ!なにか? オレって毎日飲んでるってイメージか?
Q ありますね、それは。
吉田 家じゃあ絶対飲まない。人が遊びに来れば朝まででも飲むけどね。家で、あの、いわゆる晩酌っていうの絶対しないもん。
Q じゃあ、家で特別仕事がない時は、食事してテレビ見て・・・
吉田 そいで寝るだけ、もう、11時頃から寝 ちゃう(笑)。とにかく家で酒飲まない人間ね。 カミさんと酒飲むぐらいつまんないことないんだって。信じられないんだ。あいつがそうなんだよな、エージ(音楽評論家の小倉エージ氏)、「家でカミさんと飲むのもなかなかいいもんですよ」だって。いくないってゆうの、病気だよ(笑)。 オレは基本的には"飲んべえ" じゃないからね。"飲んべぇ"ってさ、とりあえず毎日飲みたいわけだろう? オレ、そうじゃないもん。何かあって飲む時には思いきり飲むけど、次の日は飲まないもんな。ましてカミさんと差し向いでなんか飲めるかと!!(笑)ビール一杯口にしたら吹き出しちゃうよ(笑)。そういう状況に気がついただけで。
Q いやー、それは知らなかった。
吉田 だから体も丈夫だよ。人間ドックとか入るんだけどさ、逆にショック受けるんだ。 「極めて元気です!」とか言われて(笑)"アレ?" とかさ。「肝臓悪くなってるから少し酒を控えないと」とか言われるの半分期待してるんだけど、何も言ってくれねえんだ(笑)。 そいでオレ、アスレチック・クラブに入ったもんね。入ったぜついに(笑)。
Q 週一回とか?
吉田 いや、好きな時いつでも行けるんだ。
Q 甲斐よしひろは・・・
吉田 水泳やってるんだってな。読んだよ。いいね、泳げるからね。オレ、泳げねえから な・・・。篠島で一瞬落ちこんだんだ"拓郎を泳がす会"っていうたれ幕が眼に入った時は。
Q 家にスタジオを作ったとか。
吉田 いいスタジオだぜ。16チャンのマルチが入っててね、今度のLPそれで作るんだ。 最初リズム・ボックスとか、ベースとかキーボードとか全部自分で入れといて、で、やっぱり自分のじゃあテクニック的にもの足らないとかあるじゃない? そういう場合、ベースのやつとか家よんで、酒さえ飲ませりゃ来るからさ(笑)、「一杯飲みに来いや」とか言って弾かせて、差し換えると。ドラムとかもね。 そうやってLP作っちゃおうと思ってる。
Q あ、それはデモテープを作るとかじゃなくて、
吉田 そう、そこでマスターまで作っちゃって、そこから工場へ行くと(笑)。だからレコード会社とか(音楽)出版社の手に渡らないっていうね。おれんちから即カッティングに出す。原盤持つような感じだな。
Q 大瀧さんの世界ですね(笑)。
吉田 そう。そういうことを前からやってる大瀧詠一って、やっぱり利巧だな(笑)。こないだ松本隆に言われたもん。家の近所であいつと飲んでてさ「いやー、16チャンに凝っちゃってさ、オレもうスタジオから出るのがイヤだよ」って。そしたら「まるで大瀧じゃない!」とか言われてさ。「そんなもんかネー」 なんて。
Q そうすると、下手すればレコードとか事務所の人たちの耳にも全く届かない ままプレス工場へ運ばれていくということも・・・。
吉田 そうそう。いいじゃない、絶対クレームをつけさせないと(笑)。 LP千円で売るぞみたいにさ。
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■ シングルは広島弁の"鋭さ" を生かしたかった
Q 今度のシングル「唇をかみしめて」すごい素敵な曲ですね。
吉田 今度のA面だけのやつ?
Q ええ。去年のつま恋のリハーサル 、武道館のステージ、そしてアルバム『無人島 で・・・。」の中で、いちばん印象に残っているのが「この指とまれ」で、そのラインがしっか り「唇をかみしめて」にあってすごく嬉しかった。 あの、最初からハードな質問になっちゃうんですが、拓郎さんの意識として、とりあえず人間は独りでしかないっていうのがあって、それ以外のなにものでもないと、
吉田 うん。
Q そして、それでもなおかつ"マイ・フ ァミリー~我が同胞よ" と歌うっていう部分がある。「この指とまれ」もそうで、あの歌 、"この指とまれ" の部分、すごい唐突なんですよね。訣別をずーっと歌ってきて、オイラとにかく大キライだね そして"この指とまれ!"とくる。それがなんとも言えず快感で。
吉田 うんうん
Q メロディーは別にしても・・・
吉田 メロディーは別か?(笑)、3位ぐらいに入れとしてくれよな(笑)、 (注:本誌3月号のオリジナルソングベストテンで起こった<盗作>問題。拓郎の「元気です」そっくりの詞が3位に選ばれた)
Q あ、そのせつはどうも・・・。
吉田 まぁいい、まあいい(笑)。しかし、3位ってのがオカシイな。落選でもなく、1位でもない。ま、一番だけ似てたから3位と。 全部似てたら1位だな、きっと(笑)。
Q で、その「この指とまれ」のラインがもっとハードになっているけど「唇をかみしめて」に踏襲されている・・・。 あれ、広島弁で歌ったっていうのは、標準語で歌うよりも少しマイルドにしようってい うニュアンスですか?
Q 吉田 いや、あれは広島弁じゃなきゃ駄目だと思ったのね。あれを標準語でうたってもわけ分んないもん。
Q 露骨になりすぎるとか?
吉田 いや、関東弁の方がマイルドになるんじゃないか。広島弁の方がむしろ鋭いっていうか鋭角的になるっていうイメージがあるね。 広島弁て、一面すごくメッセージ色が強いわけよ。
Q 普通に話しててもケンカしてるみたいっていうのはありますね。
吉田 そうそう。女なんかの言葉なんて地獄だよ。可愛いくないわけよハッキリ言って (笑)、酒飲んでてね、酔っぱらってくると女って「いいじゃないの」なんて言うよな。それ広島弁で「何言いよるねんアンタ!!」とか言われたらさ、そらぁ完璧にだめだ!と思うわけよ(笑)。なんか120%否定されたみたいな感じがあるんだな、そんぐらいキツイんだ、言葉のニュアンスがね。そういう鋭角的な広島弁使っていつか歌いたいなっていうのはあったのね。それでたまたま鉄矢がその話を持ってきた時に、そういやあいつ博多弁のうたうたってたなと、で、台本読んだら、「あ、お別れすんだな」みたいのもあって、そりゃあ 得意のパターンだって(笑)。それじゃあ広島弁でやってみようと。鉄矢としては理想は博多弁だったろうけど。
Q 海援隊のステージでは博多弁で歌っているそうですね。
吉田 そうらしいね。だから標準語で作ったら同じことを言うんでも違う詞になったろうな。
Q 広島弁を標準語に"翻訳"するのではなく。
吉田 そう。
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僕はもしかしたら標準語じゃああまりにも内容がキツイ詞なんで、広島弁ていちおう方言だし、
吉田 普通の人には分りにくいよな。
Q ええあまりキツクしないように方言を使ったと思ってたんですけど・・・
吉田 オブラートに包むんだったら標準語になってたと思うよ。
Q あの歌、最初に聴いた時は借ミックスの音で、青山(微)さんのギターがまだ入ってなかった。その後、完パケ(レコードになる 音)聴いて・・・。すごいですね、青山さんのギターが。『無人島で・・・。』の「春を呼べII」もすごかったけど。
吉田 うん、あいつはいい。いなくなっちゃったんだよな、ああいうギター弾き。こないだも青山と酒飲んでね、で、あいつとも付き合い長いわけじゃない? 広島からずーっと。 オレも少し酔っぱらってたんだけどさ、青山に「オマエみたいなギター弾くやつ少なくなったなぁ」って言ったら青山自分で言ってるわけ、「ええ、少なくなりました」だって(笑)。 「オマエ希少価値だからそういうギター続けろよ」「ワシャこれしか弾けまへんわい」とか、それがいいんだよ。
Q ハデハデでパリパリなんだけど、歌伴 (歌の伴奏)やるとまたシブイ。
吉田 すごいよあれは、だからいろいろ、この1、2月でいろんな人のレコードやったじゃない? 大体リードは青山なんだよね。 "リードは青山がいい"ってことになってるみたいね、スタジオ内でも。元ピンクレディーの ケイちゃん(増田けい子)のLPも付きあったんだけど「どうも聴いたことあるギターだ な」と思ったら青山だったしね、川谷拓三のも青山だった。 それであいつがまたセコイんだ。あのレコ ードにも "ギター 青山徹"だけちゃんとク レジットが入っている。ギターだけだぜ(笑)。 青山がさ、"ギター青山って入れて下さい"って言うんだ。それで青山だけ入ってる。他の やつ怒るよ(笑)。
Q なんか特別に大フィーチャーされているみたいな。
吉田 そうそう。本人がそういう意識でいるのよ、本人が。全くしょーがないという(笑)。
Q 自分でも "こりゃあいい" とか思ったんでしょうね。
吉田 うん、気に入ってるみたい。あと、"ア レンジ・広島二人組"とかさ。
Q あ、あれは何なんですか?
吉田 オレと青山と2人でやったから。最初は"広島のサータレ"にしようかって言ってたんだ(笑)
Q 何ですかそれ?
吉田 広島弁で"アホ"ってことよ。"このアホ!"っていうのをさ広島では"このサータ レが!"って言うんだ。 ただ、あいつには金がかかってるからさ、いいギター弾かなきゃダメなんだ。昔からすーぐ人をなぐりつけるから(笑)。朝、電話かかってくるんだ。「拓郎さん、またやりました」 って。
Q ケンカして警察署にとめられちゃって?
吉田 そうよ。しょうがないから「今度はいくらだ」って聞いて現金持ってあいつを引き 出しに行くんだ(笑)。何回あいつの、なんだ?
Q 身元引き受け人?
吉田 そうそう。それになったかわかんない。
Q 他人に曲を書いた場合、オケに関してはノータッチなんですか?
吉田 うん、ボーカルの時だけ行く。オケはまかせてる。メチャクチャ大ざっぱなことだけはアレンジャーに言っとくけどね。具体的なアイデアがあればそれも言っとくけど、微に入り細に入りは無し。でも、後で聞いてなんかネパッてるわけ、ギターが。"グイーン" とかね。「こりやぁひょっとして・・・」とか思 たらしっかり青山だったとかね。あいつ仕事人だよな。
Q まだ相変らずポーズなんですか。
吉田 いや、ちょっと伸びてる(笑)。
Q 新プでギタリストのページがあって、 取材したんですけど、その直後にポーズになっちゃって、本がでたけどまるで実際と違うっていう事があったんです。
吉田 あ、知ってる。ギタリストのなんとかだろう? あの中の1本オレのなんだ。
Q あ、そうなんですか?
吉田 そうよ。ピンクのフェンダーのストラ トあったじゃない? あれオレのなんだ、返 してくれないんだ。(注:新譜ジャーナル1981年9月号。その中で問題のストラトに対して 青山は"音色がいまひとつで、ときたましか使っていないけど愛してる"と述べている)
■ 春までには全て白紙に戻したい。 社長業もね
Q でも最近、拓郎さん自身が歌づくりに関して、それはもしかしたら私生活の部分も入ってくる問題なんでしょうけど、すごくトンガッテきたっていう印象があるんですけど。
吉田 そうかな..。ま、とにかく色んな事やってきて・・・、いつも何かあるたんびに" 色んな事やってきて”って思うし言うんだけどさ (笑)。今回、4月ぐらいから今やってるラジオとか全部降りちゃって、まっさらに戻りたいわけもう一度。とにかくもう一回、いろんな事白紙に戻した状態で、物事を始めてみたいっていう感じがすごく強くなってね。やっぱり秋休んで良かったよな、そういう意味じゃ。秋あれでツアー続けてたらこういう気持ちにはならなかったと思う。忙しさにかまけて逆になんでもOKしちゃったんじゃないかと。秋休んで、ずっと家に居て"オレ、本当 だったらツアーやってたんだな" とか考えてね。いろんな人がコンサートやってるのながめてたり、いろんな人の出すレコードが出てくるの見てて、ラジオなんかやってて・・・。で、そろそろいろんなことから足洗ってもいいなあって。
Q やらないことはやらないでいい。
吉田 そう。やらんでもいいことはやらない。 だから4月ぐらいからは本当にコンサート1 本になるよね。
Q オールナイトも3月いっぱいで。
吉田 うん、やめる。ラジオはもう、やらないんじゃないか、多分。パックイン・ミュー ジックからだと10年ぐらいやったもんな。夜中起きてんのしんどいよ、さすがに(笑)。 とにかくいろんな意味で、4月から "在り方"を変えていこうかと思ってる。スタッフサイドの考え方とかもね、ひとつに片寄りすぎちゃってね、物事をひとつに決めすぎているってのがある。それに従って動いてる自分ってのが見えるわけよ、時々。それも半年休んでいろいろ考えてみて、情ないことだと。 極端な例を言えば、レコードの発売日が先に決っててそれを目指して作るなんて、今考えるとバカバカしくなってきてさ。そんなの 出来てからの話じゃないかと。ところがスタッフ・サイドとしては出したいからね。それがアルバム作りにもすごい影響してるんだけど、そういう発売日に合わせて作るみたいな意識がさ、何ていうんだろうな、普通になっちゃったんだよね。ローテーションどおりに出す、と。その辺、もう一回考えたいんだよな。オレ達のやってることそんなに"ちゃんと"できることじゃないもの。だから、"ちゃんと"できることじゃないってことを"ちゃんと"させたいと(笑)。ややこしい話だけど。
Q そう言えば陽水さんは"ちゃんと"できないことに関しては"ちゃんと"してる(笑)。
吉田 あいつはルーズっていうか、好き勝手にやってるからなあ(笑)。やっぱりできない時はできないんだから、(発売が)伸びる時もあるっていうね・・・。それが"伸びちゃ困る"っていうところが、オレ の中ですごい良くないことだからね。やっぱりフォーライフの社長みたいなところにいるから・・・、何もしてないとはいえ"社長がそれじゃしめしがつかんだろう"みたいなこともどっかで感じてるしね、自分で。そういうのも、春先頃には結論出したいと思ってる。
Q 後ほどうかがおうと思ってたんですけど、社長業をやめるんではないかという噂も。
吉田 うん。近いんじゃないか(笑)。自分の中ではもう決ってるんだよね、あと、残った問題はスタッフがそれをどう処理するかでね。 これでトラブルにならなければいいわけで、トラブルになるんじゃ困るからさ。そうならずにすんなり行けば、春先には社長やめてるし、他のことも降りるし。そういうのって自分の中では固まってるんだけど、一度やったもんだし、"社長が変る"なんてことは企業にとっては大問題だからね。そうかんたんにオレの好き勝手だけじゃいかん部分もあるだろうからね、それはゆっくり解決しないと。とにかく自分から腹すえてしょいこんだ事だから。
Q ただ、そういう声を聞いて、いわゆる"貸レコード屋問題"なんかも含めて、現実にレコードが売れなくなってきている。
吉田 そうだよな。
Q そういったものに対する、いかにも拓郎さんらしいクサピではないかという意見もあったんですけど。
吉田 いや、あれに関してはそこまで思想的なものではないよ。あれは"フォーライフじ ゃなきゃできないってこと、やろうよ"っていうことがあってさ、若い会社なんだから四角四面のことばっかりじゃなくてね。アーティストが作った会社なんだから、アーティス トがやりたいことが通るってことを示そうじ ゃないかと、そこだけでつっぱった。最初はレコード屋さんじゃ400円では売れないとか聞かされてさ、じゃ鉄矢の映画やってる映画館で売れんか、とかね。じゃソノシートにしちゃえとかね、本気で考えたくらい。だから、あれは"レコード売らなきゃいかん" じゃなくてさ、なんか"そういうこともしなきゃいけない"みたいなね。それぐらい楽しみが少 ないじゃない今は?
Q ええ。ローテーションどおりレコード作って、ツアーでて、みたいな。
吉田 そうよ。単純なくり返しばっかりでさ、たまにはああいう山はったみたいなことがあってもいいと思うしね。
Q いわゆる"オモシロイ"ことを、と。
吉田 まわりはどうか知らないけど、自分が面白いと思うことね。だからレコードもらっ てやっぱり面白かったよ、B面ツルンツルンだもんね(笑)。あのB面、飾りになるよ、オレん家、飾ってるもん。あとレコード聞きあきたら鍋の下に敷くやつに使える(笑)。失敗 したなー、"使用後は鍋敷きとしてお使い下さ い"って書いときゃ良かった(笑)。
Q 今日、レコードいただいたんですけど、とりあえずB面ツルツルっての、何とも不思議でしたね(笑)。
吉田 いやー、やって良かったな。やって良かったなんて最近思ったことないけど、これだけはつくづくやって良かった、意地はりとおして(笑)、指紋つける心配もねえしさ。そこらへんころがしといても平気だぜ(笑)。 それでも中にはB面に針おとすやついるだろうな、"何か入ってるかもしれない" とか (笑)。絶対いるぜ。
Q ミゾだけ掘っておくのもよかったかもしれない(笑)
吉田 ずーっと回っててさ、最後に"よく聴 いたな、お前" とか入れといてな(笑)。そうか、それはあったな(笑)。 ただ、社長業に関しては最初はちゃんとした大社長になるつもりだったし、やったよ。 フォーライフのこと "会社ごっこさ。どうせすぐつぶれる"なんて言うやつがいてさ、冗談じゃねえ、大企業の大社長になってやるんだってね、怒りながら社長やってた(笑) もう、フォーライフ、絶対つぶれないな。
Q では、とりあえず春からはそういうしょいこんだものを降ろして・・・
吉田 そう、そのつもりでいる。人の腹の中を見ないでいいっていうね、もっと言えば 人が何考えようとかまわないっていう次元にね、戻れるかどうかわからんけどな。オレはそうするつもりだ。
Q ただ、去年のコンサート・ツアーにしても、先に曲作りがあって、それをコンサートでやって、それからレコード作りになるとか、拓郎さん個人のプロジェクト・チーム(U FO)を作ったりとか、そういう流れは去年からありましたね。
吉田 雰囲気はな、雰囲気はあった。
Q それをもっと徹底させようと。
吉田 そう、もっとわかままになってしまおうと。
社長業、ラジオ・・・、ミュージシャンにとって本来不用なもの全てを、自らの生活と、そして体からそぎ落とし、吉田拓郎は今また純粋にひとりのアーティストとして歩み始めようとしている。 本誌その他で活躍された評論家の田川律氏は、現在の日本の音楽状況を憂い、"変化" するためにはまず"場所"を変えることを訴え、そして自らが置いている場所を変えた。そして吉田拓郎。彼は"外の景色も人の心も変わってきたけど、人間なんだ忘れ ちゃ困るよ、俺ら気ままでいいじゃないか 俺らとにかくチョイト ゴメン"(この指 とまれ) と高らかに歌い、まさしく "自らを置いている場所"を変えようとしている・・・
もちろん、これは"結論"ではない。どころか、新たな出発である。吉田拓郎という人間の中の"アーティスト"に、そこまでの"わがまま"を要求する(もしくは許す)ものとは何なのだろう。吉田拓郎へ自らの存在の全てを"アーティスト"に同化させようとまで思わせるものは一体何なの だろうか?
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