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2011/01/02

吉田拓郎LONG INTERVIEW 今、再び荒野をめざして 新譜ジャーナル'82.5後編

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"全ての肩の荷を降ろし、自由にわがままに"と、吉田拓郎は言う。彼の話を聴いていて、フト、彼は自らに課 す新しい壁を見つけたな、と感じたのは気のせいだろうか。 最初に頼んだボトルはあらかた空いてしまったが、彼の口から放たれる言葉は、いよいよ熱い。

■今年は「人間なんて」は 歌えないな

Q 今年はイベントをやってくださるだろうと、手ぐすねひいて待ってたんですけど・・・
吉田 できないなあ、今年は。
Q 渋谷さん(マネージャー氏)にうかがったら、つま恋と篠島が4年おきだったんで、次も篠島の4年後で来年になると、うまい逃 げ方をされました(笑)。
吉田  オリンピックか(笑)。でも、現実問題として場所が無いんだよな。なんてったって一昼夜やれるような場所がさ。やっぱり篠島の灼熱地獄には行きたくないしさ(笑)。またスタッフ全員日謝病にしちゃうのもいやだしね。来年だな、残念だけど。
Q 残念です。本当に。
吉田  オレとしては今年は「人間なんて」うたわずに済んだというほっとした気持ちもある、実は(笑)。みんな病気だよ。
Q 病気に近いですね、本当に。でも、病気にかかれるっていうのも、今の世の中にあってはとても素啇女なことで・・・。変にさめきったように10代、20代を送るよりも。
吉田 いや、最近オレも少し人間変わったのかなーと思うのはさ、例えばオフコースがあるじゃない?彼らのコンサートに女の子がキャーキャー行くと。それが、なんかすごく嬉しいわけよ。素直に。今観といた方がいいと思うんだ。もしアリスが今まだあるんなら、一回ハンド ・イン・ハンド体験しといた方が いい、と。なんせ若いうちは何でも一回体険した方がいい。オレのコンサートばっかり来てさ、"アリスがなんだ!!"なんていうまま病気持ちで大人になっていくよりは、いいんじ ゃないかと(笑)、そういう感じがすごく強いんだよね。
Q それは、数多く体験するべきだ、という意味でですか?
吉田  そう。10何年前だったら"オレは岡林しか聴かん"でもよかったよね。今よりも自 分の置かれてる状況とか、とりあえずの敵とか先のことが見えてたからね。今はそうじゃないからね。自分がどう生きていくか、なんてことをいつまでも決めにくいし、自分自身で決めることも、なかなかできないっていうね。
Q 誰かに決めてもらいたがっているっていうのも強い。
吉田  そう。それだったら、アリスも観た方がいいし、さだも千春もオフコースも、甲斐 バンドも矢沢も観た方がいいんじゃないか。 こういう時代だからこそいろんなもの見た方がいいっていう感じがするわけよ。 やっぱり去年の秋休んだの大きいんだ。ひところは言ってたんだよね、"みんな節操ねえ な、いろいろ行きやがって"って 80年ぐらいまでステージの上から言ってたんだよね。 でも、去年の夏のツアーやって、本当にいろんなものが見えてきて、秋休んで考えて、また見えてきたんだな、いろんなことが。まあ、例によってオレの独断と偏見なのかもしれないけどさ。今の若い人はいろんなもの観て、選択する機会はなるべく持った方がいいと・・・
Q  "拓郎ひとすじ!!" とこだわらずに?
吉田 そう。それは何でかっていうと、マスコミが強すぎるっていうこともあるんだ。マ スコミに踊らされてじゃなくて、自分の足でチケット買って、自分のお金で観に行って、自分の眼と耳で確かめてくるっていう作業はなるべくした方がいい。マスコミのファッションに流されていくんじゃなくてね。それでアリス見に行ってしびれちゃったと、それはそれで、その人にとってはとても幸せなこと だしね、きっと。 ま、時代と共に生きるってのと、時代に流されるってのは違うけどね。

■この10年間 日本の音楽は不毛だ!

吉田  この半年間いろいろ考えてね、今、結論があるわけ。こないだコウタローがインタビュアーの仕事があってね、それにも答えたんだけど、「この10年間どうだった?」っていう話があったわけ。それで確実に言えるのは日本はやっぱり日本なんだよね。で、日本人 はやっぱり日本人なんだ。そのことがいいん だけど、悪い部分でもあるわけ。たとえば今日本ではロックがはやってる。とりあえずね。で、ロックがはやってんだけど、オレが思う に、これはロックがはやってんじゃなくて、 ロックンロールっていうファッションがはやってる、と。"ダガダガダッタ、ダガダガダッタ"ってね。でもさ、日本の音楽って、オレたちのも含めて、全部コピー文化だよね。だけど、69年から70年にかけては音楽革命が日本にはあったわけよ。それは岡林(信,康) とか高石(ともや) とかがやって、僕らがフォ ローして成立した。オレは岡林を否定したけど、岡林がいなかったらオレもいなかったからね。ある種の音楽革命、"他人が作んない歌を自分で歌うんだ"っていうね。"自分が詞をかく、そしてメロディーもかく"。それがどんな稚拙でもつまんなくても、歌うんだ、歌ってみせるんだっていうね。そしてテレビとかの媒体は通さないけど、"プロの歌手"なんだってね。そういうのが69年から72-3年ぐらいにかけてどっと出て、ひとつの音楽革命があったんだよ。
Q ええ、確かにありましたね。
吉田  日本の音楽の流れがずいぶん変わったんだよね。ところがね、僕らがコピーしたアメリカとかヨーロッパ見てるとね、"ロック革命"がいつもあるわけ。ビートルズが出てきて革命があって、そのあともクリーム、ツェッ ペリン、ジミヘン、その人が出てくることによってギターの弾き方からなにまで、音楽の流れがガーッといっぺん変わっちゃうんだ、欧米はな。ところが日本はあれから誰が出てきても音楽の流れそのものは変わってないん だ。
Q 表面でやってる人がうつろっていくという・・・。
吉田 そうよ。回り見回してみな。みんな陽水みたいな歌をうたってると思うだろう?
Q なるほど(笑)。
吉田 思うんだよオレ、どう考えてみても。 とすると、陽水が音楽革命起こしただけでさ、日本では、後は革命ではない、と。思わざるをえないよね。オレがもし評論家だったらそういう記事書くぜ(笑)。"日本のこの10年間の音楽は不毛だ、革命が起こってない"。こないだ陽水と昼間に酒も飲まずに5-6 時間話すという、珍しいことをしたんだけど、言ってたよ。「待ってると売れるもんだね。」だ って(笑)。 アリスの"ハンド・イン・ハンド"、あれはなんとなく社会的な意味あいでは"音楽という文化"みたいなところに行きそうにはなったよな。音楽の革命ではないにしろさ。だからオレは嫌だったんだけど、興味はあったわけよ。関心があった、だから歌にもなったよな。
Q 「この指とまれ」ですか?
吉田  まぎれもなく、そうだよな。ところが、関心あったんだけど、やつらが解散しちゃった。そうすると"ハンド・イン・ハンド"してた客ってのは、宙に浮いちゃうんだ、またしても。それで「次は誰のファンになろうかしら、谷村さん追いかけようかしら」ってことになっちゃうわけだ、ファンは。そこまでの意味も含めて、音楽的な革命はないよな、日本には。 "フォーク"みたいなものが生まれて以来。

■音楽が時代を変えるんだ

吉田  オレ、今やってることはまちがいなくロックだと思ってるわけね。でも、ロックとか言うからにはさ、革命がいつも無きゃいけないわけよ。これはねばならないんだ、ロックってのは。それがロックなんだ。 だけど今の日本はなんだ? ロックっていやあすぐ"ロックンロール!" 情けないよ、それは。 かろうじて桑田だな。あいつは流れを少し変えた。だから好きなんだ。
Q こういう状況だからこそ、拓郎さんとしては黙って見てられないと。
吉田 だって裏返して言えばさ、オレがこうして生きてられる、歌ってられるってのはおかしいわけさ。そう思わない?  若いやつらがどんどん革命起こしてきたら、オレ付いてけないはずじゃないか。だけどオレ、まだ簡単に付いていけるぞ。コピーで始まったオレ達をさ、もうコピーじゃなく、最初からオリ ジナルの意識でやり始めた連中が追いこさなきゃ。
Q  "時代 "みたいなのもからんできますね、そこには。
吉田 でも、時代が変んなきゃ音楽が変んないってのは、情けない話だぜ。"時代を音楽が変える"、それが素晴しいんだ。
Q いまだに拓郎さんは"違うだろ"って、警鐘を発さなければならないところにいるわけですよね。そこが辛いところでもある。
吉田  そう。普通ならレオン・ラッセルになってなきゃいけないんだオレは。ちょっとかっこ良すぎるか、言いすぎかな(笑)。でも、本当はそうだよな。"何かいたね”みたいな存在になっていていいわけ。こういう話を誰かと、しててさ、そうするとだんだん「そうすっと、アレですかやっぱりオレがやらなきゃいけないんですか?」って感じになってくるんだ、これがまた(笑)
Q それは、そうですね。やっぱり拓郎さんに登場願いたいと。
吉田  そういうのは非常におかしいことなんだ(笑)。さっきの話とつながるんだけど、いかにも日本人ぽい。 早くオレが歌えない、というか歌わないという時が来ないとね。音楽全部変っちゃってオレなんか出ていけない、そうしたらオレ、フォーライフの社長続けるよ(笑)。だって15、16の子供達って、間違ったらオレが生んでた子だぜ。間違わなくてよかったけど(笑) 。そういう子供達に対してさ、オレか? また (笑)。 女だったらユーミンだよな。あいつ出て、本当に音楽変った。で、あいつ、今でも本当にがんぱってるよな、もう28か29だろう? がんばってる。だけど、いくらがんばってもし ゃあねぇんだっていうことを示す若いやつが出てこなきゃいけないんだ。 もっとヤバイのはさ、また"テレビ”に帰ってきてるってことな。なんにもなりゃしない。

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■今、再び荒野をめざして

Q そして、拓郎さん自身が、69年から70 年、71年ぐらいの姿に立ち返ろうと。
吉田  うん。オレは自分のやってる音楽を変えると。でも、そこまで自分で自覚してやるっていうのもおかしなもんでね、そう思わない?
Q ええ、嬉しいけれど、複雑なものが残る。
吉田 ディランがさ、ダイア・ストレイツのあのギターを使う、そうすることによってディラン自身も鼓舞される。そういうのが美しいんだ本当は。ディランはもう自分が変りようがないってことを自分でじゅうじゅうわかってるわけよ。
Q その方が姿勢として綺麗ですね。
吉田 ボブ・ディランがいっくら詞書いても、いっくら曲作っても、あいつはもう変らない。 彼は革命はもう起こせない。一回は起こしたけどね。革命ってのはね、同じ人間で一回は起こせるけど、2回は起こせないぜ。
Q 同じ人間が2回は革命は起こせない?
吉田  2度やったら革命にはならないよ。多分にグループだけど、ビートルズってのはあるけどね。それはグループと個人の差かもな。
Q 日本で言えば細野さんがはっぴいえんどとYMOで2度やったみたいに、ですね。
吉田 そうだよな。あと、さだまさしとか松山千春とかだろうな。日本の音楽の流れを変える可能性があるのは。今までやってきた音楽はどうであれ、何しろあんだけの人を動かせて、あれだけの人を、スタッフも含めてだけどね、自分の回りに集められるんだから。 だから極端な、失笑に値する例だけどさ、千春が「永ちゃん、一緒にうたおうよ」とかさ、これはあくまで例だよ。でも、そういうような発想が生まれりゃあな、これは面白いよね。 音楽文化としても大きく前進する。自分の世界で充分だと思わないでね。可能性はある。あと、もっと若い人で言えば山下久美子とか佐野元春だな。ああいうのがもっともっと売れるようになると、変るな。可能性があるやつは売れなきゃ。おじさんも応援しようと (笑)。一回対談やらせろや(笑) 。
Q 判りました、今度ぜひ(笑)。そして拓郎さん自身も、変えるべきだという意識を持って、これからまたうたい始める。
吉田 そうだな、好き勝手に。
Q また期待されますね。
吉田  人の期待なんて関係ない。オレはお客さんに何も要求しないし、こうしろ! なんてまして言わん。せいぜいたまには若い人もダイエーで買い物しろと(笑)。オレも実に日本的なんだ(笑)。第一、人の期待どおりになったら革命にならんじゃないか。
Q それはそうですね(笑)。ただ、期待に応えてくれなかった、ということで期待に応えてくれるということも、ある(笑)。
吉田  そういう言い方もあるな、ジミ・ヘンみたいにね。人のことなんか全く関係なしに好き勝手にやって革命やっちゃったからな (笑)。

吉田拓郎は「オレが2度目の革命を起こしてやる」とは、とうとう言わなかった。読者の中にはその点で不満を感じる人もいるかもしれない。しかし、彼はこれまで一度だって誰かのためにとかいう、いわゆる"全体的なもの"に対して働きかけたことは無い。彼の言葉、歌、動きは常に"自己"に向かっていく。その結果が、社会的なものにつながっていることはあるにせよ。彼の"少なくともオレは自分の音楽を変える"という言葉こそが、彼の今の思いの全てなのだ。僕たちは、そんな彼に、彼の言葉とはうらはらに勝手に期待してしまうのだが。 吉田拓郎は、今、再び新しい位置に立った。その歩みはこのニューミュージックという綺麗に整理された土地を再び荒野にする歩みかもしれない。そして、その荒野からこそ、新たなる音楽革命が生まれるだろう。吉田拓郎、この大いなる人・・・。

(終)

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