吉田拓郎・男のライフスタイル / 平凡パンチ1984.3.19号
吉田拓郎・男のライフスタイル / 平凡パンチ1984.3.19号
東京今昔物語
食うことだけで精一杯。東京第一歩では、目の前にあった泉岳寺を見物することもなかった。
後方が「高輪マンション」。今は土地カンはないが酒屋の場所はなぜか覚えている。
月1回の大盤振舞のとんかつ屋「新友」。突き当りの左右の道が国道1号。
ラーメン屋「昭ちゃん」へ毎日通う。ラーメン・ライス、タクアンで百円だった。
新宿1丁目角に木造2階にエレック。写真左手で今は御苑フロントビルだ。
買うあてもないのに新宿の洋品屋を物色。ジーパン・オンリーだったのにね。
エレックから50mで新宿御苑。ヒマつぶしに行った。ギター持って。
レコーディングは杉並テイチク・スタジオか六本木のCBSソニーで。
◇
人生の成功物語は「双六遊び」なのか。 上がりを目指し続け、自分の意思で下がることも、休むことも許されぬ。そして、男はある日、人生の「双六ゲーム」に参加するか否か の決断を迫られる。
「ゲーム」に賭けた男がいる。 歌謡曲界に「フォーク」という分野を切り拓いた、吉田拓郎がその人。
彼は「人生双六」の上がりに指標を合わせたとき、交通機関の上がりである東 京へと、移ってきた。 昭和45年3月、吉田拓郎の「東京物語」の始まりだ。
友だちのオンボロ・コロナにギター1本、ステレオ、布団、そして大学の卒業証書を積み込み、広島を出た。着いたのが六本木。そこから居候を決めこんだ、上智大全共闘くずれの「フューチャーズ・サービス」の連中がいる港区高輪、赤穂浪士で知られる泉岳寺門前の「高輪マンション」へ。イナカモンに生来の方向音痴が加わって、3時間もかかった。 5キロも満たない距離。
サイコロの第一投はメタメタ。
エレック・レコードとは給料3万5000円で契約したが、仕事なんてあるわけはない。毎日、ラーメンライスを食っては部屋でゴロゴロしているだけ。給料日は、マンション向かいのトンカツ屋に飛びこんだ。月1回の大散財。「でも、毎日、酒は飲んでいた」
東京の町になじむ余裕はみじんもない。 第二投目は、杉並、堀ノ内の妙法寺前、 「堀ノ内ハウジング」の3階。エレック・レコードの社長宅近くで、 ここなら、「食いっぱぐれがない」と、引っ越した。家賃は3万5000円。給料は上がらず、家賃と給料はイコール。それでも死にはしなかった。 毎日、新宿御苑前にあるエレック・レコードに社長の車に便乗して出勤し、通信販売のレコードを荷造り、発送し、'70年の戦塵おさまらぬ、新宿イコール東京だった街をぶらつき、飲んだくれていた。 「東京はクダラネー、と思っていた。人気がなかったからね」 「俺は東京中心の文化っていうのがあるんだったら、それはおかしいつう発想があった。なんかチャチャを入れたかった」 「東京に住みたいとは思ってなかった」
やがて気の合った仲間と事務所をつくった。レコード会社もメジャーなCBSソニーへと移った。「結婚しようよ」「旅の宿」の大ヒットで「フォークの旗手」の地位を得、長者番付にものった。
「長くやってもいいと思ったのは、人気が出たから、ファンが許してくれなかった。(広島)帰りたい俺をムリやり……」 なごむ場所も、新宿から原宿へと変わった。銀座のクラブの酒も覚えた。そして、今日この頃は、六本木。
拓郎のプレイ·スポットの変遷は、東京という都市の「カッコイイ」盛り場の移り変わりとまったく同一歩調。 「今は東京に愛着してるね。広島に帰るのはイヤだよ。メンドくさいもん」
東京という平面での吉田拓郎の「双六ゲーム」。ひとつの上がりへは着いた。
次の「双六」は何だ。
「40歳でも(コンサート)ツアーをやっていたい。誰もいないから」
世間でいう「若さ」を失った今、年齢との戦いという新たな「双六遊び」にサイコロを投じようとしている。東京という平面にこだわって・・・・
◇
高輪からの引越し先は、落語で有名な妙法寺の門前。3のつく日が縁日なので、人恋しさゆえか、ここにはよく来たものだ。
左手の「堀ノ内ハウジング」3階に住んだ。大家さんに「ガンバッテ」とはげまされてた。
拓郎が住んでいた部屋の前。LP「人間なんて」のジャケットと同じアングルで。
いつも飲んでた歌舞伎町「がんばるにゃん」はトルコ街の中に消滅してしまった。
「がんばるにゃん」の裏。ここには若者たちの熱気あるおしゃべりがあった。
仲間とつくったユイ音楽工房は早川屋ビル5F。なぜか1Fが酒屋。
新宿から金がなくて堀ノ内まで歩いて帰った。中野坂上でいつも吐いた。
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machiブログより
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