サマルカンド・ブルーWild lion or unpolished diamond 対談 ①
Wild lion or unpolished diamond
T: KAZUHIKO KATO
Z: KAZUMI YASUI
N: NAOKI TACHIKAWA
N: ZUZUは最初にTAKUROをやるという話は、いつ頃聞いたの。
Z: 具体的に頼まれたのは、いつ頃だったかしら。 私は最初、通訳かお世話役で行くつもりだったから……。そしたらいきなり詩を全部書いてくれって話になって。それからTAKURO研究が始まったの。TAKUROも自分のアルバムを4、5枚持ち込んで来て。
N: それまではそんなに近いところにいた人じゃなかったんでしょう。
Z: 友達仲間としてはね。でも音楽的には……私、だいたいフォークの人ってだめだから。
T: (笑)
Z: それからTONOVANとTAKUROと一緒に「RONIN」をやることになってね。人間的には大好きだったし、ま、何ていったって、日本の音楽界のプリンスってところがあるでしょう。彼みたいなのは、永遠のプリンスね。
N: 永遠のプリンスね、なるほど。
T: 随分、年食ったプリンスだけどね。それにしてもTAKUROって老けないなあ。
Z: だから永遠のプリンスなのよ。
N: 詩を書くときに、自分で詩を書く人に頼まれた場合とそうじゃない場合とでは、全然ケースって違うでしょう。
Z: それは勿論よ。
N: 特にTAKUROの場合、嫌いな人は嫌いだってことはあっても、好きな人には絶対崇拝みたいなものってあるものね。
Z: そこまで深くは知らない方がいいと思った。ただTAKUROの詩との出会いっていうのは、10年位前にもうあったわけ。まだ2人とも若くて、原宿なんか伸してた頃よ。そういう意味では、TAKUROに詩を書くという気分は、悪いものじゃなかったのね。でも10年位ポッカリ間が空いているし、音楽的な活動というのも、交差しているわけじゃないからわからなかったでしょう。TAKUROにしても、私の詩のイメージは10年くらいブランクだったろうし。「Just A Ronin」のときに一緒にやって、ああTAKUROの歌っていいな、TAKUROの声っていいなと思ったの。
TAKUROも私の詩をうまく歌ってくれたし……。わあ、いいなあ。何かチャンスがあったら、詩を書いてみたいなあって思っていたのよ。それで頼まれたから、もう、嬉しくって。でもTAKUROっていったら作詞家だから、2人で半分ずつしようよ、なんて話もしたんだけど、彼が"いや、お前が全部書け"なんてね。でもその時は、まだ半信半疑だったの。とにかくTAKUROは今度のアルバムのことを、全面的にTONOVANに任せていたわけだし。私とTONOVAN、TAKUROの3人で話をして、3人が納得できるものじゃなくてはいけないということになった。3人といえば、TONOVANも作曲するし、普通だと誰が作詞して、作曲してというような役割分担になっちゃうんだけど、その役割分担はいけないことになって、皆んなでやればいいんじゃないかなんて話をしたこともあったのよ。でも最終的には、いろいろやってみたんだけど、だんだん整理されてきて、やっぱりお前が書けということになったの。その場合でも大きな問題だったのは、私は訳詞から入っているから、ほとんどメロディーが先行していたんだけど、TAKUROの場合は、詩が先なわけ。だからTAKUROの家へ行って、メモ風なものを渡してみて、泣いてみたり、わめいてみたり……。
T: (笑)
Z: それはもう、大変なぶつかりようでね。
N: メロディーを先でやってきた人が、詩を先でやるとなるとやっぱりパターンが違うからきついのかな。
Z: そういう意味では、好きなことは書けるんだけど、言葉っていうのは面白いもので"このワインはおいしいです"って言うのと"おいしい! このワイン"って言うのでは、ニュアンスが違うでしょう。詩が先だとそれがセンテンスになってきて、メロディーが先だと、私、どちらかっていうと律儀だから"うまい! このワイン"というようなことは、仕方ない状況だと書けるんだけど、だいたいはきちんとした言葉で書いてしまうのね。だから御行儀がよくなっちゃうんじゃないかと心配してたんだけど……。
Everywhere he goes shouts. He is a wild shouting lion.
N: でも、歌、凄いね。
Z: 最高ですよ、最高!
T: 素晴らしい!
N: 作詞家冥利に尽きるでしょ。
Z: もう、そりゃあ、愛しちゃいますよ。まして行間まで考えてくれるわけじゃない。彼だって伊達に十何年も歌ってるわけじゃないし、私が書いた詩のことをきちんと考えて、書いた詩以上のものを出してくれる。
N: 凄いヴォーカリストだよね。
Z: そう、ヴォーカリストとして最高よ。まあ、フォークの人、独特のフレージングというのは、いつも私の神経にさわっちゃうところがあったんだけど……。
N: あったの、そういうところ。
Z: あったわよ。(実際に口調を真似しながら)それで全部直したの。
N: TONOVANがTAKUROに魅せられた一番のポイントってどこだったの?
T: この間も飲んでて言ったんだけど、最後のライオンみたいなところがあるね。
N: 獣! 歌う獣ね。
Z: ライオンよ! 吠える……。
T: どこ行っても、動物園に連れてきちゃっても、ライオンはライオンでさ。 緑がなくなっても、俺はライオンだって、吠えてるところ。 孤高のさ。
N: ニューヨークでも何も変わらなかったものね。
T: 凄い、最後のライオンて感じがしたわけ。シンガーとしても好きだし、TAKUROにもっと可能性があると思った。 そういうところで何かやってみたいなと……。ハードボイルドって話が最初にあって……。
Z: そう、そう、そう。
N: そしてなぜ、ニユーヨーク? TAKUROはアンディ・ニューマークとかウイリー・ウイークスをTOKYOに呼んでやればいいじゃないかと言ったこともあるらしいけど……。それでもなぜニューヨークでやらなくちゃいけなかったんだろう。
T: それはね、ある種の精神的なことなんだけど、TAKUROもひとつのパターンというものを確固として持ってるし、何か次にやるときっていうのは、すごく新しいことをやるわけじゃない。それは非常に大変なことっていうか、15、6年やってきたことに対して刺激を受けるというのはね。やっぱりニューヨークっていうのは世界中で一番刺激的だし、及ぼす影響というのは大だよね。大嫌いっていうかもしれないし……。ま、言ってたけど(笑)
Z: 大嫌いでもいいのよ。
T: そう、それで彼にプレッシャーができてるわけ。それが歌にひとつのパワーになって現われてるよね。それがひとつと、後はパワー・ステーションていうスタジオと、ミュージシャンと……。まあ、いろんな理由があるけど。
Z: 彼も、ニューヨークは居心地悪いって、最後まで激しく言い続けて帰ったけど、それですら大事なことなのよ。アーティストにとっては。
N: そうだよね。
Z: そう。日本だっさたら、彼はSPOILED CHILD! あんなに見事にガードされて、あんなに皆んなにTAKE CAREされて、言いたい放題言って……。 あんな人間が、まだTOKYOにいるのかと思うと不思議なのね。
T: そうだ!
Z: 私たちなんか野ざらしでしょ。STREET PEOPLEなわけよ。だから自分のことは自分でやる。誰も構ってくれない。それがもう、彼ときたら……。
T: たとえば映画なんかでもよくあるんだけど、俳優が出てるときは、よくわけがわからなくて、クソミソに作品や監督のことを言うことがあるじゃない。 そういう、TAKUROにしては初体験の、変なことばっかのだったかも知れないけど、そんなものがレコードに…。
Z: 歌に出てる!
N: わかるよ。TAKUROも言ってた。 リズムを録ってる時に、俺だったらもっと音を重ねる。 不満だと……。ところが歌を入れてみたら、畜生KATO! 凄いと思ったと……。そうTAKUROが思ったこと自体、もう成功したと言えるんじゃないかな。
Z: そう、そう。彼の歌がよくて、売れることが目的なんで、別にウイリー・ウイークスやアンディ・ニューマンがどうだっていいわけよ。 彼の歌が引き立つためのパックであって……。
N: TAKUROは最初はわからないんだよね。
Z: そうなの。最初はわからない。でもヴォーカルを入れてみたら、ギンギンに引き立つわけよ。そういう意味じゃ、ウイリーやアンディたちって、プロだからちゃんと心得ているのね。
つづく
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