サマルカンド・ブルーA magazine filled with essence of sexy guy - September 1986 【 拓郎インタビュー② 】
Part 2 After The Recording
The Beatles were a big dream,I really mean a big dream.
─ こうして歌入れが終わってみて、自分で、年代によって歌い方って変わったと思う? ─
T: 変わってるところもあるよ。変わってないところは変わってないけど……。でも変わってないところの方が多いよね。変わったところっていうと、良くないところだな。
─ それは…? ─
T: やっぱり艶がない!
─ 若さと関係あるのかな ─
T: うん、若さだね。はちきれるというかさ……、そういうパワー感というものがない。いくら叫んでもないね。
─ でもパワー感がなくなった代わりに、たとえばジャズ歌手の多くがそうであったように、違う唱法を自分なりにつかんだというようなことはない? ─
T: そうできるほど器用じゃないし、大体昔から歌はそれほどうまくないもの。
─ 僕は今回、うまいと思ったけどね。お世辞じゃなく。 ─
T: うまいという基準をどこにおくかだろうね。
─ 基準がどうかというより、今の若い歌手に"歌う"という行為を忘れてしまったような連中
が多過ぎると思わない。バックに負けちゃうというか、先にバックができるとそれに合わせて
歌っちゃうというか…。昨日TAKUROも言ってたけど"歌だけでは負けないぞ"という気迫ね。
それにここにTAKUROがいるんだということは、TAKUROがやるしかないんだもの。そしてうまくなきゃできないんじゃないの? ─
T: そうだろうな。そして、これは少し話がずれるかもしれないけど、声の質っていうか、質感のようなものがあって、人を……、もっと言うとミュージシャンを触発する声っていうのがあると思うんだ。俺の声っていうのはそうなんだな。それは自分でも最初から思っていたよ。声の質感はユニークだなって……。
─ 今まで随分大きな会場でやってきたけど、そういうところでコミュニケーションがとれるっていうのは、やっぱりそういう風に肉体がなければ無理だよね ─
T: そう。声っていうのは身体の一部だからね。 そういった意味では非常に肉体的だよね。
─ 「レノン症候群」って曲があるよね。レノンとえば、彼が死んだところと割と近い場所でああいう曲を歌う。ましてビートルズが好きだった。大好きだったってルーツを考えると、何か特別の感慨のようなものってある? ─
T: 余りないね。死んじゃった時は相当落ち込んだ感じがあって……、ヤバイなと思った
けど……。
─ どのへんの部分で一番ヤバイと思った? ─
T: 俺が勝手にそう思い込んでるのかもしれないけど、あいつはやっぱり組織とか、体制の中に入り切れない人間だったと思うな。どこか1人でさ。そういう奴っていうのは、大体、体制から潰される可能性が強いんだ。あれは確かに殺人者がいるんだけど、どうも俺には何か必然的な匂いがするんだ。何か世の中に潰されたって感じがして……。そういうのはヤバイなと……。それが特にジョン・レノンで行われたってのがヤバイと思ったね。選ばれたように殺されたっていうか……。
─ 用意されたようにね。ケネディ暗殺に近いものがあったよね? ─
T: そう、そう! 他のミュージシャンの名前をあげちゃ悪いけど、あそこはやっぱりジョン・レノンだったんじゃないかっていう……。
─ 一番最初にビートルズを聴いた時って、やっぱり触発された? ─
T: 凄かったよ! やっぱりうるさいっていう……、メロディーがどうとかいうより、とにかくうるさい!"こんな音楽が今から流行しちゃうのか"みたいな感じだったな。
─ 高校生の時だよね? ─
T: そう、1年の時だね。
─ やっぱりビートルズって、皆んなに自分たちでもバンドをやれるっていう行為に走らせた
じゃない。それでマイケル・ジャクソンなんていうのは、見てもとてもじゃないけど無理じやない。やる気にならないっていうか……、そのへんがすごく違うよね ─
T: そう、そう。俺でもできそうって感じを与えてくれたからね。それでビートルズって、俺でもじゃなくて、俺たちって感じだったじゃない。4人いればいいんだと……、とりあえず4人仲間が集まれば、何かできるかもしれないって。これは大きかったよね。与えられた夢としてはね。
─ それで割とすぐ、バンド作っちゃったの? ─
T: うん、すぐやったね。で、ストーンズがいたからさ。皆んなたぶんビートルズにいくだろうってことで、あえてストーンズの作品を選んだりとかね。ファッションはビートルズしてるんだけど、サウンドはストーンズになっちゃってるっていう、変な傾向があったけどさ。
─ たとえばミック・ジャガーっていうのもまた、ジョン・レノンみたいにな聖なる感じっていうのはないけど、彼なりに戦ってるわけじゃない。不良っていうのがトレードマークになってて、若干つらいところがあるけど、彼なんか見ててどう? ─
T: 俺はキース・リチャードにすごい関心があるから、あっちの方にローリング・ストーンズを感じててね。ミック・ジャガーにはあまり感じない。ワルとか不良とか、あの男のことを言うんじゃないかって感じがするんだよな。
I just have to go with that, don't you think so.
─ 昨日もTAMJINにちょっと言ったんだけど、TAKUROが"俺はわがままなんだよ"って言うと全部物事が……。いわゆる必殺技ってあるでしょ。何かミーティングやってても、何をこうしようああしようとか言ってても、最後に"俺はやりたくない。俺はわがままなんだ"で済んじゃうところってあるじゃない。そのわがままさっていうのを支えてるのは、やっぱり自分の信念とかパワーなんだろうね。そんなに大袈裟じやない……─
T: 結局、俺は一攫千金を夢見て東京に出て来てるわけじやないから……。だからミュージシャンじやなくてもいいってところがあるわけ。で、大学の途中で就職決まってたから、元々サラリーマンじゃないかっていうのがあるし、見合いで結婚するんじやないかって図式もあってさ。ひょんななりわいで、音楽で食ってるわけじゃない。だから"いつでも帰るよ"っていうのがあるわけ。別にこの世界にいなくていいよっていうかさ。だから平気なんだよね、誰が何言ったって怒ったって……。
─ なるほどね ─
T: つまり誰かが"協力しない"って怒るじゃない。"じゃあいいよ。やめようよ"ってなるわけ。それでもダメなら"じゃあ俺、田舎帰るから"みたいな気楽さがあるから……、ここにいなきゃいけないみたいな義務感て、俺、何にもないからさ。
─ そうすると、けっこう売れたアーティストが感じるようなプレッシャーとか、いい意味で感じないでずっと過ぎてると……?
T: そうなんだよね。お金持ちになったなあとか、よくわかんないじゃない。やっぱり金持ちにはなったけど、その場で使った方がいいって感覚なのよ。
─ うん、うん ─
T: どこでも行けるじゃないかって感じが、あるんだよね、いつも……。だから昨年のつま恋で引退なんて言ってるけど、そんな引退とか何とかって言うんじゃなくてさ……、自然の流れっていうか……。よく何周年記念コンサートとかやるじゃない。芸能生活何周年とかさ。ああいうことって俺には全然わかんないわけ、感覚とて……。
─ TAKUROって、16、7の子どもがデビューするのと違って、分別も何もある状態でデビューしたわけでしょ。ビートルズとか、ジョン・レノンもそうだったけど……。だから5年経ち10年経ちっていうのを、すごく冷静に受けとめているんじゃない? ものの成り立ちを…… ─
T: そうだな……。大体最初のレコード会社が、エレックっていう糞マイナーでさ。通信販売の会社だからさ。そこの全貌とかわかっちゃうと"何てことないや"って思うわけよ。レコード出すってことも、別に大したことでもないし……。いきなりCBSソニーじゃなかったのが良かったんじゃない。割合シビアにいろんなことが見れたっていうかね。自分のレコードを通信販売でさ、梱包とか手伝いながら"ああ、人生は風ですね"みたいなこと思って……。これは吹かれるように吹かれるしかないなって……。
─ 考えてみたら、5年ぐらい前からインデイーズ、インディーズって言われてるけど、エレックなんてインデイーズの走りだよね ─
T: 権化、権化(笑)
─ でも、自分が好きなように作って、好きなように出せてた時代だよね ─
T: でも、レコード出さなきゃ会社が潰れるって状態だからさ。これはレコードにするほどのもんじゃないって言ったって"出さなきゃお前に給料払えない”って言うんだから……。その頃、もう1枚出したら広島帰ろうかなって考えてたけどね。
─ 帰って……、どんな会社に就職決まってたの? ─
T: 河合楽器って楽器屋さん。ピアノのセールスマン。決まってたんだよ、それは…。
─ ここにいるようになっちゃったのかなあって思い始めたのっていつぐらい……?3年目ぐらい……? ─
T: そうだね。人が集まり始めた頃だね。吉田拓郎って名前で……。その頃からだね。ここにいてみようかなって……。
─ そういう意味では居心地が悪かったことってない? ─
T: 住めば都だからね。
My energy can't last but it can blast.
─ 考えてみたら、アーティストってよく"しばらく休みます"とか言うけど TAKUROって1回も言ってないでしょ? ─
T: ただ社長やってた時だけ……、できないからね。その時は何もやってなかったけど。
─ 自分で決まったエネルギーって、1日でも1カ月でも1年でもそうだけど、計算して使っていく方…? ─
T: もう、行き当たりばったり。 企画性ってことに関して、ゼロだもん、俺。大体企画倒れだね、物事のすべて……。
─ なるほどね ─
T: 持続力がないんだよ。 どっちかっていうと瞬発力なんだよ。
─ なるほどね(笑) ─
T: 昨年映画やったじゃない。「Ronin」を……。 俺、映画ダメだもん。ついていけないもん、あの世界には。 1コマ1コマ何回も撮り直してさ。 ああいう持続力っていうか、作業にはとてもじゃないけどついていけないね。
─ レコーディングなんか、自分でプロデュースやってる時なんか、やっぱりミックスとかあまりグチャグチャやらなかった? ─
T: やんない、やんない。 飽きちゃうんだよ、すぐ。 最初だけ……。だからなるべく早くやっちゃう。 気持ちのいい時に……。
─ ツアー中なんかの時は、大きいコンサートだと1回に集中できるけど、全国なんか行ってると同じ曲を何度も歌うじゃない…… ─
T: もう完全に飽きるよ。 コンサートやりたくないって原因はそこなんだもん。もう20カ所とか30カ所とかなるとね……、同じ歌、歌ってんだよ、毎日……。 そりゃ飽きるよ。 飽きないって奴は嘘つきだよ、絶対…。
─ だからレコード出して、それに合わせて春と秋にツアーやるとか…… ─
T: とてもじゃないよ。 若い時ならやっただろうけどさ……、今は嫌だよ。 飽きない方法論とかが見つかったら、またやるよ。
─ 他にたとえば……、今度レコード1枚作ったじゃない。 で、今、言ったみたいにツアーも
やらないと……。 そうすると、たとえば計画っていうんじゃなくて、今、自分でやりたいとって…、何が一番やりたいのかな ─
T: ないよ。 何にもない。 とにかく人から電話がかかってくるのを待ってるって状態……。
─ "何かやんないか"って…… ─
T: そう。 それでそれが面白そうだったらやる。 面白くなかったら丁寧に断って、また今度って……。
─ そうすると、何かやってないと不安になっちゃう奴っているじゃない? そういうところはないんだ?─
T: ない。
─ なきゃないに越したことないね ─
T: それは人間の本質で、楽して儲かればこんな楽なことはないんだから、楽してゴロゴロしていたいよな。 で、俺、出不精だからね。 家でゴロゴロしてるの好きだから……。
─ 旅行とかも別にそんな好きじゃないんだ?─
T: 誰かが行こうとか言うのを待ってる。 常にWAITINGで、人が言ってくるのを待ってるんです。
─ 自分で好きな音楽って、どんなの好きなの?─
T: 自分のが好き。
─ 自分のだと押し並べて好き……? ─
T: 大体俺、寝る時にヘッドホンして寝る癖があるんだけどね。 自分のLP聴きながら眠るんだよ。 俺以外のだとね……、まあヴォーカルのないもんかな。 人の声はあまり素敵に聴こえないっていうか……。
─ でも一番いいんじゃない。 そういう風に思って、やってられるっていうのはさ ─
T: まぁ幸せだよね。
─ 幸せだよね ─
T: 幸せだよ。 それは確かに……。
─ すごくね ─
T: 人から見ればアブノーマルな感じってあるけどさ。 まあ幸せな方だよ。
─ うん。 でも声っていうのを手に入れるのが、一番難しいわけじゃない?─
T: そう、そう、そう。
─ 別にギターはいくらでもうまくなれるし、太鼓も練習すればいいけど、声だけは、これは本当に……、森 進一しかりさ。 ロッド・スチュワートしかりさ。 選んでいくと何人もいないんだよね ─
T: いない。
─ やっぱり売れてる人たちは、いい意味でいい声してるんだよ ─
T: ○○○○にね。
つづく
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