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2005/08/27

お喋り道楽 拓郎×松本隆③

     絵空事の世界を壊したかった

拓郎  さて、はっぴいえんどもいろいろあって解散しちゃって、自分が望んでいたかどう かは知らないですけど、気がついたら松本隆は大作詞家になってしまった。そのへんのいきさつはどうだったんですか。

松本 単純にさ、はっぴいえんどでの僕の担当が、詩を全部書いて、ドラム叩いていたわ け。それで、どっちかを選ぼうと思ったの。二兎を追うのは嫌だなあと思って。

拓郎  二兎は追わない人なんだ。

松本 ドラムだとさ、僕が考えるには、はっぴいえんど以上のメンバーっていなかったのね。これ以上のバンドが作れないんだったら、やる意味はないから、スタジオミュージシ ャンになるか、作詞家になるか、どっちかしかない。ロックがこんなに長続きするって思 わないじゃない。

拓郎  あの頃はね。 松本今だったらさ、たとえばストーンズがじじいになってもまだ同じスタイルでやって るわけで,それはそれで素晴らしいことなんだけど、当時、僕らは二十二、三歳でさ、五十すぎてドラム叩いている姿なんか想像できなかったからね。じゃあ、悪いけど、ドラム, ここで思いきってやめてみようかなあと。それって、自分にとってものすごいことだった のね、ナタで命綱ぶった切るみたいな。

拓郎  僕なんかが見れば、松本はドラムでよかったのにねとか思うんだけど。

松本  言葉は、自分で何となくこれでやっていけるかなあと思って。

拓郎  当時はまだ、松本君が作るような言葉づかいっていうのかな、日常会話みたいなも のはなかったでしよう、流行り歌の世界に。やっぱり花鳥風月とか、そっちが圧倒的で。   

松本 絵空事だったの。そういう歌謡曲、つまんないじゃない。嫌いだった。嫌いなんだ けど、変えられるんじゃないかなあと思って。自分が、何ていうのかな、川のこっち側に 立って対岸を見ると、すごいネオンの海が向こうに見えて、ブルックリンからマンハッタ ンを見るようなものですね。で、あそこ行って、ちょっとぶっ壊してみたいなと。

拓郎 人の家を壊すなっていうんだけども、必ず人の持ち物とかを壊してみたくなるんだよね。やっているうちに、簡単に壊れるなっていう感じでしたか。

松本  いや、結構手ごわかったね。

拓郎  手ごわかったですかそれで、いろんなアイドルも含めて注文が来るわけですよね。 男の子と女の子とだったら、どっちが書きやすいというか、乗れるんですか気分的には やっぱり女の子のほうがいい?

松本  どうなんだろうな。周期があるね。女の子ばっかりでちょっとうんざりするなあと 思うと、男の子のが入ってきたりするし。

拓郎  たとえば少年の歌作るときって、やっぱり精神的に少年になるんですか。松本君っ
て、「微熱少年」だよね。

松本 僕ってやっぱり、ピーター·パン世代なのかな。

拓郎  いろんな人の曲を作ってるけど、この子はいい子だったなっていう女の子はいまし たかあまりいうと問題あるかもしれませんけども、この子のはちょっと面白かったなあ っていうのは。

松本 みんな素晴らしくてねえ(笑)。

拓郎  松田聖子はよかったですか

松本  あの人は、スピーカーからさ、僕の詩が肉声になって出てくるじゃない 詩を書いてるときに、こうなるだろうなっていう予感はもちろんあるんだけど、紙の上の文字がス ピーカーから風のように出てくるのよ。

拓郎 松田聖子っていうのは、いちばん最初に曲を依頼される以前から、どんな人なのか っていうようなイメージがあったんですか

松本  あの頃って、『ルビーの指環」とか『ロング·バケーション』とか、マッチのス ニーカーぶるーす」とか、結構売れたんだけど男ばっかりに書いてたのね。女の子が急にいなくなっちゃったわけ。誰か女の子に書きたいなあと思っていたらさ、CMで「裸足の季節」ってあったじゃない、僕の詩じゃないんだけど。何か、この声の人にはね、僕が合 本 うと思ったの。

拓郎 松田聖子には僕が合うなんて、普通の人はなかなか思わないよ。おれだって思いたいけどさ。

松本 僕が書くべきだなあと。

拓郎  書くべきだと(笑)。あ、そうですか。これは天職のようなものだ。そういうのは ハマっちゃうのかもしれないな。

松本 時代の波ってあるじゃないですか。あの頃ってさ、何にも苦労しなくても、時代の 波の頂点に乗って滑っているときだったんですよ。そういう本能的なカンみたいなものが すごく働いているんだよね。

拓郎 たしかに、そういうひらめきみたいなものがバンバン来るときと、全然ひらめかな いときとあるものね。何周波数みたいなものがあるんだろうな。それで、松田聖子には ひらめきを感じたわけだ。

松本 ご飯どきにね、テレビをボーッと見てたらCMが流れてきて、宇宙の周波数みたい なものがピッと来て、箸が止まってさ、うん! おれが書くべきだなって。次の瞬間、三 秒後ぐらいには、そんなこと忘れているんだよ。ずっと忘れてて、いい歌うたっているな あとか思っていたらね、忘れた頃にさ、詩書きませんかって依頼がきて。

拓郎 裏からコネ使ってない?

松本 拓郎じゃないから、そんなことしたことないよ(笑)。

拓郎 そんなことって、おれが年中してるみたいじゃない (笑)"おれはできないよ、恥ずかしくて。

松本 なかなかできないよね。

拓郎  できない。やっぱりいくら何でもね。だけど、このアーティスト、おれだったらと 思う人は時々いるんだよね。

松本  いや、いっぱいいるよ。でもね、僕が聖子をバトンタッチしたのって、『白いパラ ソル」なんだよね。あの頃はもう『青い珊瑚礁』みたいなさ、すごい張ってる高音の肉音 は、たぶん年令のせいだ る人年歯 だけど、 とテンポ落として、しっとりした歌を歌えるんじゃないかなと思って、それで『赤いスイ ートピー』とか作ったの。

拓郎  君はさ、松田聖子とか太田裕美とか、アイドルとか若い女の子たちに、まあ、音程 はこのへんの低いところで歌ったらいいんじゃないかっていう感じで作ってさ、それを分 からない女の子たちが、君のことを先生と呼ぶ。僕は不愉快な気がする(笑)。

松本 呼んでないって。

拓郎  松本先生とかっていって、おれには拓郎さんとかいって、失礼だって(笑)。君も 結構スタジオに行くよね、ボーカル·ダビングとかやってるときに。

松本  最初はね、行ったほうが売れていたの。

拓郎  あれ、ジンクスなの?

松本  うん。あるときふっと気がついたの。売れる曲と売れない曲があって、何が違うかなあと思ってね。そしたらスタジオ行ったものだけ売れていたの。

拓郎  行かなかったものは売れなかったの?

松本  うん。そのうちさ、おれも何か有名になっちゃつて行くとね、歌手の人があがっ たりなんかして。すごく若い人たち出てくるじゃない。十六とか七とかね。そうすると松本さんがいると、緊張して歌えないみたいですとかいわれて。

拓郎  そういうこといってもらえるんだ。おれなんか、スタジオ行くと、今日も来てるとかって、ヒマ人扱いだよ。拓郎さん、今日仕事ないんですかって。バカヤロー、お前のレコーディングだから来てるんだよ。時間がいっぱいあるんですねぇとかいわれながら、楽 しまれてるもん(笑)。失礼な話だよ。

松本  それは人間的な懐の深さという……。 拓郎 そう思ってくれる、本当に? おれは自分でほんとに懐深いと思ってるの、誰もい ってくれないけど(笑)。

松本  いや、深いと思うよ。

 

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