お喋り道楽 拓郎×松本隆④
時代が変わっても残る歌
拓郎 松本君はお酉は飲まないし、趣味は、本?
松本 本読んだり、歌舞伎観に行ったりしている。
拓郎 『微熱少年』っていう映画もやりましたけど、これから映画とかも作りますか?
松本 映画はちょっとね。
拓郎 小田和正が二作目にトライしているんだけど。
松本 やめたほうがいい。映画は映画で、みんな命懸けているからね。
拓郎 そうなんだよね。
松本 やるんだったら、こっちも命懸けでやんないと。
拓郎 そう、腹くくってやんなきゃいけないと思うよね。僕、映画に出演するだけでも大変だと思ったもの命懸けじゃない、みんな。あんなところにチャラかしで行くと失礼だと思うんで、もう二度と出ないと誓ったんですけどね。映画、作りますか、やっぱりいつ かは。
松本 どうしようもなくなったら作るかもしれないけど。
拓郎 今は小説で表現できると。
松本 小説もね、ここ数年、書けてない。
拓郎 書けてないというのは……?
松本 やっぱりね、韻文と散文てね,正反対なの。同じ言葉なんだけど 両方やるって 、 すごく難しくてね。だから詩を書きたいなと思ったら、小説はお預けだな。
拓郎 全然、世界が違うわけ?
松本 全然違う。簡単にいうと、詩っていうのは引き算なんですよ。いらない枝葉を全部 切っちゃって、幹と根だけにする。それがいい詩なの。小説は逆だね。
拓郎 なるほど。
松本 幹を作って、いっぱい葉っぱつけて、花を咲かせてね。小説は足し算。足し算と引 き算って、両立しないでしょ。
拓郎 なるほどね。かなり違うものなんだ。
松本 引き算は引き算でよさがあるからね。
拓郎 今の音楽についてはどう? いいたくなきゃいいんだけど、小室哲哉とか、あれ系の若い子のものがいっぱい出てきて、僕らの時代では想像もつかないくらいの枚数のアル バムが売れてるわけでさ。『風街ろまん』は何枚?
松本 あれ、想像で1万枚売れたって、喜んでいたよ。
拓郎 今はCD何百万枚っていう世界ですからね。そういう歌の世界を、言葉の世界から 見てて……。
松本 あれって、そんなに興味はないんだけど、要するに物の価値を数で評価するのはやめたほうがいいよ。
拓郎 数でね。
松本 何万枚売れたとかさ、いくら売れたっていうのは、意味ないと思うよ。それより残る歌をどのくらい作るか、そういう物差しではかるともっと厳選されると思う。
拓郎 今は厳選されてない?
松本 今の歌がね、何曲残るのか、分からないですよ。
拓郎 これから十年、歌い継がれるものかは。
松本 十年たってみないとね。だってはっぴいえんどがね、こんなに残るなんて全然思わ なかった。もう二十年以上たっているでしょ。
拓郎 そうですよね。
松本 二十年間、ろくに売れなかったものが残ってるっていうさ。
拓郎 これはすごいことだよね。
松本 これは価値があると思う。時代が変われば、枚数なんて意味がないよ。時代が変わっても残っているかどうかだよ。
終
| 固定リンク
「お喋り道楽」カテゴリの記事
- お喋り道楽 拓郎×松本隆④(2005.08.27)
- お喋り道楽 拓郎×松本隆③(2005.08.27)
- お喋り道楽 拓郎×松本隆②(2005.07.27)
- お喋り道楽 拓郎×松本隆①(2005.04.03)