77年大いなる人・拓郎×岡本おさみ対談⑥ 歌謡大賞のこと フォーライフの新人のこと
【 歌謡大賞のこと フォーライフの新人のこと 】
拓郎 ところで話は変わるけれどさ、さる高名な役者が、あの『襟裳岬』は『マイ·ウエイ』 よりいい。日本には『マイ·ウェイ』のような歌がなかったけれど、『襟裳岬』はそれをはるかに凌ぐ傑作だって言ってるのを聞いたんだよ。非常にあの時はうれしかったね。 でも、岡本ちゃんの詩って批判されたことってあまりないでしょ…。
岡本 うん,そうかもしれないけど、『襟裳岬』 というとね、こういうことがあった。イラストレーターの和田誠さんの本に「日曜日は歌謡曲」っていうすごく面白い本があるのよ。 その本を読んでいたら『襟裳岬』という歌は二つあるが、島倉千代子さんのものは古いパターンの歌謡曲である。その点森進一の方は 大変新鮮であるかわりに、詩がなんのことかわからない。一体誰が”悩んで“誰が”老い ぽれた“のかわからないって書いてあったわけ。そりゃ、その歌の言葉を吐いた作詞家の僕に決まってるじゃないかってね、今度出した『旅に唄あり』って本にチクリと書いたんだけど…。
吉田 ここに呼んで来い、岡本おさみにかわって俺が教えてやる(笑)"それから『襟裳岬』 というと、岡本ちゃん、歌謡大賞のときテレビに出たじゃない。あれどうして出たんだ っけ?
岡本 あの時の事情とか理由は、『旅に唄あり』 に書いてあるじゃない。おまえ、本読んでく れてないな(笑)。
拓郎 いや、読んだよ。で、本音かね?
岡本 本音だよ。
拓郎 もう一回行かない?賞とってさ。
岡本 なんかもうレコード大賞とか、歌謡大賞ってのはおもしろくないよ。
拓郎 いや、おもしろいって。つまりさ、一 回じゃおもしろくないけど、二回とってもういらないよっていうのはいい。二回も俺たちに賞をくれやがって、バカじゃないと言ってやめるのが一番いいね(笑)" 一回はまぐれってこともあるけど、二回となると評価とか賞としての信憑性もずっと出てくると思うよ。
岡本 じゃぁ、もらうか(笑)それはそうと、 拓郎が今すごく好きな流行歌の歌手っている。
拓郎 歌い手ではいないな。俺はさ、いま棟方志功さんって言われるくらい裏方志向だか らね。だから発想が非常に裏方的になってい るわけよ。「この歌い手はいいなあ、手がけてみたいなあ」とはならなくて、「この人、ダメになったなあ」と思うと、その歌い手をなんとかしてあげたいなあって気になるのね、良く言うと。悪く言うと、そいつでひと山あてようっていう…(笑)。
岡本 フォーライフには、新人でいい歌い手はいないみたいだね?
拓郎 いるじゃない。小出正則とか小林倫博、それに原田真二。いや、この秋の新人三人はいずれも素晴らしいよ。
岡本 小出君だけはステージも見たけど、それほどでもなかったよ。
拓郎 それはね、岡本ちゃん、今のこの世界の情況だけを基準にして考えちゃいかんのよ。 俺だって最初はひどかったし、関西フォーク の雄、岡林信康とかいってたけどさ、俺も彼もギターもあまりうまくなかったし、音程は悪いし、歌もヘタだったしね。それに比べれば最近の連中は平均してギターも歌もうまい。 ただ何が足りないかといったら、やっぱり説得力とかバイタリティ-が足りない。その辺がおしなべてドングリの背比べなのは確かだけど、個性はわりとあるよ。その個性を説得力になかなか結びつけられないだけでね。
岡本 僕はね、音楽性とかいう以前に、ステ ージに出ただけでさ、例えば立ち姿がいいと か、なにかこう、どこから出てきたヤツだろ うとハッとさせられるような歌い手に、そろそろまた出会いたい。
拓郎 そりゃあ、もうあなたが歌うしかない。 オレ、岡本おさみのLPだったら出すよ。売れなくても、それくらいの器量はあるよ。
岡本 じゃあ1年がかりでやるか。でも、そうすると他の詩が書けなくなっちゃう…。
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