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2005/08/04

77年大いなる人・拓郎×岡本おさみ対談④ 惰性や栄光を断ち切った コンピ空白期のこと…

【 惰性や栄光を断ち切った コンピ空白期のこと・・・  】
それはそうと、ここ数年、まったく二人のコンビの歌が聞けない時期が続きましたが、 何か理由でもあったのですか?
岡本  それはね、特別のはっきりした原因があったわけじゃないと思う。例えば、ボクサーとトレーナーがいてある時期は二人のコ ンビでものすごく燃焼して、チャンピオンにもなったけれど、その結びつきが惰性になったり、同じ作業の繰り返しになったら、とてもつまらないと思うんですよ。つまり栄光が日常になっちゃったら、やはりつまらないで しょう。だから離れる時には離れることも必要だと思うんです。再び新鮮な出会いの可能 性を残しておくためにも…。
拓郎  まあ、あの頃の俺の心境を正直にいう と、岡本ちゃんは旅ばかりしていたじゃない。 それも使命感で旅をしているみたいに俺にはみえたわけで、俺は、旅っていうのは使命感でするものじゃないって思っていたから、 もし本当にそうなっているのだったら、岡本おさみと俺とは随分遠い違った所へお互いに行っちゃったんだなって感じた。どっちがいい悪いじゃなくてね。とりあえず『ライブ'73』を一緒に作った頃の接点は、歌の世界にもないだろうし、話してみても仕方ない。会って話せば喧嘩になるだけだろうって発想がすごくあったんだよ。まあいい、それなら岡本おさみは岡本おさみでやりなさい、俺は俺でやるからって気になってね。それが男の心情というものじゃないの。
岡本  それはそうだったろうね。でも、僕があの頃年中旅をしていたのは、それはそれなりの下世話な理由もあったわけですよ。例えば『襟裳岬』のあと、家の電話が1日に50回 も鳴るみたいな状態になってね、大部分が仕事の依頼なんだけど、中には、ある流行歌の作曲家なんだけど「ぼくが曲を書いてあげる ということは、あなたにとって素晴らしいことなんだ」みたいなことを平然と電話で言ってきたりね。もう、そういうセリフを聞くとものすごく腹が立つわけ。もう一つは喧嘩に疲れたっていうところもあった。つまり仕事の依頼を断わるっていうのは喧嘩ですからね。 そうやってほとんど断っていたのだけれど、 例えば僕が以前ものすごく世話になった人の紹介とかで、仕事を頼まれたりすると、やはりちょっと断われないな、みたいなことも多 多あってさ。もう、そういうしがらみが面倒 臭くなって、そこから逃れるために旅に出たってところもあった…。
 
拓郎  確かにあの時期の岡本おさみは、大変な売れっ子の作家だったろうから、依頼の量もすごかったと思う。でも俺には、旅をしながらじゃなくちゃ詩は書かん、というのが岡本おさみの姿勢みたいにみえたわけよ。もち ろん、それはそれで男の生き方、生きざまだからさ、そのことはとやかく言えないと思ったけど、ただ自分とはサイクルが合わなくなってしまった、とそう感じた。岡本ちゃんがどこへ旅をしようと、俺は東京で根をはやし て、東京でやりつづけるんだって考えていたから。
岡本  でも、あの頃旅の途中、1か月に1度 は必ず帰ってきていたでしょう。そういう時に必ず拓郎の新しいレコードを聞いたりして いたのね。『今はまだ人生を語らず』とか『明日に向って走れ』とかさ。そうして聞いてみると、彼はもう自分で自分の言葉を吐いている。あのLPにしろ、もう自分の言葉だけで、 キチッと自分のトータルな世界を作りあげていると思ったのね。だからそれはもう詩集と同じもので、そこに余分なものが入るということは、全体の調和を乱すこと以外の何物でもない。そこにはもう絶対に関与できないし、 しちゃいけないと思った。だから、もし僕の方があの頃詩を書いて持っていったとしても、 拓郎は受けつけなかったんじゃないかな。 それからかまやつひろしが歌った『我が良 き友よ』 あの歌は特にすごいと思ったな。 『旅の宿』と同じくらい良かった(笑)。
拓郎  そういえばあの歌をね、旧制高校の時代のことを何も知らないで、よくあんなパン カラふうの詩を書けるもんだ。あれはまったく実感じゃないはずだから、要するに"作られた歌"であるみたいな批評をしている評論家がいたよ。
岡本  それはつまらない批評だね。僕はね、あの歌は「旅の宿』の延長線上にある、拓郎 の本質の一面が表現として出てきたものだと思うんですよ。彼にはものすごく日本的な部 分、日本酒的な部分があるし、かつて大学の応援部にいたというようなバンカラな一面も あると思うからね。それに詩人というか、詩を書いているような連中はみんな風来坊でし よ。じゃあ風来坊には、働いている人の歌を書けないかというと、そうは言えない。まあ そういうことはとても小さなことなんですよ。 要するに作品がいいか悪いかだけのことのはずなんです。

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