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2005/07/27

お喋り道楽 拓郎×松本隆②

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頭脳警察とはっぴいえんどは許さない

拓郎  詞を最初に書いた曲って覚えてる? 一番最初に作った曲って。

松本 はっぴいえんどの前に、発売と同時に解散したエイプリル・フールっていうロックパンドがあって。

拓郎  柳田ヒロ。

松本 そうそう、知る人ぞ知るみたいな。

拓郎  そういうんじゃなくて、アマチュアの時代に、商品になる前にさ、走り書いてボツ っちゃった曲なんてないの?

松本  エイプリル・フールの一個前に細野さんとね、名前は忘れたけど、アマチュアバン ド作って、それで一個だけコンサートやったんですよ。三部ぐらいあるコンサートの中の トリの部を、おれのオリジナルで構成して。

拓郎  それもいきなりプロっぽいじゃない。たとえば、個人的に女の子の前でギターでこ うやって歌ってとか。

松本  ないないない。

拓郎  ないないないって、そんな否定しないで。おれはあるから。最初はそんなもんだと 思ってたぞ、曲っていうのは。大体、初めて詩を書こうかというのは、高校ぐらいのとき にジメジメしながら、好きな女の子に、なんとかちゃん好きだよとか、書いてない?

松本  うん、必要に迫られてね。

拓郎  高校の頃って、ナンパなんかしてたんでしょ、湘南なんかで。

松本  うん、人並みに。湘南とね、千葉も行ってたよ。

拓郎 千葉ですか。千葉と湘南って、同じ海でも何か違うんですか。

松本千葉のほうはね、ちょっとフィルターがかかってるんだよね。同じ太陽でもちょっ と暗いかな。

拓郎 ほんとかな(笑)。

松本そのシブさがいいんです。だからみんなが湘南っていっているときに、おれは館山に行くとか

拓郎 そういうタイプだよ、君は。話はちょっと変わるけど、松本君たちのはっぴいえん どに、恨みがあるんですから。あれ、立教大学でしたっけ?

松本 慶應大学。

拓郎 学園祭で,頭脳警察とはっぴいえんどと僕なんかが呼ばれて、みんな持ち時間を区切られているのに、頭脳警察っていうのがすごく長く演奏したんですよね。そのあと、は っぴいえんどで、僕が一番最後だったんです。それで頭脳警察の演奏が長くって、声高々 とアジテーションをやって。そのあと君たち、すごく不機嫌だったでしょう?

松本 次の日が京都で、最終の新幹線に間に合わないから1曲しかできないとかマネージ ヤーがいってさ。僕は何か他のこと考えていた。あんまり進行のことはよく知らなくて。 で、大滝詠一が出て行ってさ、頭脳警察が長くやりすぎたから僕らが1曲しかできねえっ て。

拓郎 大滝君がそういうこといってくれたもんだから……。

松本 反乱になっちゃつたの。

拓郎 そのあと、僕一人なんですよ、残った出演者は。君らはバンドだからいいけど、僕は一人なんですから。

松本 あのときはほんとに、ドラム叩いてて、石が飛んでくるわけ。細野晴臣さんとか、
大滝さんは、ギターとかベースは弾きながらよけられるじゃない。ドラムはこうやって座 っちゃってるからさ、ビシッとか顔に当たって痛えなコノヤロー! って。

拓郎 そのね、痛えなコノヤロー! とか、一曲しかできませんでしたとかっていうもん ですからね、君らがいなくなってから、僕一人ひどい目にあいました。頭脳警察とはっぴ いえんどへの怒りを全部僕一人で背負い込んで。ギター1本だよ、おれ。悲しかった。頭 脳警察とはっぴいえんど、おれはもうこの二つのバンドは絶対許せんと、ひどいやつらだ なぁと思った。あれがはっぴいえんどとは、最初で最後。

松本 あれがそう? その後、会ってない?

拓郎 会ってないですね。第一、はっぴいえんどと吉田拓郎、毛色が違うでしょ。どっち かっていうと、何だ、あの野郎みたいなのがあるじゃないですか。

松本 うちのバンドはすごく過激でね。すごい偏屈じじいの集まりだったから。

拓郎 その伝説といわれているはっぴぃえんどの話なんですが、知る人ぞ知る細野晴臣さ んってどういう人なんですか。 松本天才だったものね。

拓郎 天才ですかやっぱり。

松本 僕が高校卒業したときに、上手いベーシストがいるから一緒にやってみないかって いわれて、二人で会ったんです、原宿の喫茶店で。で、現れてさ、当時、こんな肩ぐらい まである髪の長い人ってめったにいなかったじゃない。

拓郎  もう長かったんだ、その頃。

松本 彼は大学二年で、初めて会ったときに、「君、髪が短いね」っていわれた。

拓郎  いいな、そのフレーズ。まんまだけど、いいね。はっぴぃえんどでは細野さんが音楽的なリーダーシップを握ってたんですか。

松本  うん、この人はすごいと思ったね。

拓郎  最近会います、細野晴臣に?

松本  時々ね、バッタリ会うよ。最初に会った、彼が大学二年のときから、あ、この人、 おじさんだと思っていた。

拓郎  そういう感じね。悪い意味じゃなくて。

松本 すごくね、悟りきったような、深いものを持っているわけ。

拓郎  そういう印象あるよね。

松本 今でもまったく変わってないの。ちょっと太ったぐらいでね。

拓郎  大滝詠一さんはどういう人ですか。

松本 友達だけど、あんまり年中会いたくはない。

拓郎 そうなの?まあはっぴいえんどというのは、いつもそんなに何してるっていう感 じのバンドじゃないものね。

松本  いや、よく、あんな偏屈な人間が四人も集まって一つのことやってたなと思う。

拓郎  集めたのは誰なの?

松本  やっぱり細野さんだよ。

拓郎  よく選んだね、こんな変わった人たちを。

松本  みんなあそこで人生を間違えたんです。

拓郎  松本隆ももちろん最高に変な人だと思いますけどね。

松本  普通、バンドってさ、一人だけ才能のあるリードボーカルがいて、後はバックバン ドになっちやう。ローリング·ストーンズがいい例だと思うんだけど、あれって、ああい う一つの形が理想なわけ。はつぴいえんどってビートルズ系なんだよ。四人で、何かギク シャクしながらやっていた。

拓郎  うーん、自分でいってるからすごいね。四人の中でいちばん面倒見がいいというの は誰なんですか。

松本  おれじゃない。おれが通訳だよね。

拓郎  通訳ね

松本  潤滑油。細野さんところ行って、大滝さんはこういっているけど……。

拓郎  それ、疲れるねえ。半年もたないな、そんなのは。

松本  三年もったんですよ。

拓郎  それこそ伝説のアルバアムがたくさんあります 名曲もたくさん残ってます。日本のフォークとかロックの一つの源流のようなものが、はっぴいえんどというか、細野さん あたりから出てきているというのがあるんだよね。

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